「まぁーたおなか出して寝ちゃって」
 ぽかぽかとした日光が窓から差し込んできて、あったかい空気が流れる部屋の中。壁ぎわに設置されている長椅子の上では、あたしの幼なじみがぐーすか寝ちゃっている。
すーすーと寝息を立てて、起きる気配はない。あぁ気持ち良さそうな顔しちゃって。思わず感心しちゃうほどの眠りっぷりに、あたしは幼なじみが寒くないようにその辺から毛布を引っ張りだした。
 掛けてやろうと近づいていく。すーすーかーかー、やっぱり彼女は起きる様子もない。長椅子の上で器用に寝転がって、存分に惰眠を満喫している。普段は寝相悪いくせに、こういう時はこの子は長椅子から絶対に落ちることはない。変なところで器用なやつ、とあたしは妙に感服しちゃう。
 ぐっすり眠っているこの子の顔は、今はうっすらとした笑顔。いったいどんな夢を見ているのかしら。感情の絶えない表情だから見ていて飽きない。さっきまでは眉間に皺を寄せてうんうん唸っていた。思えば、この子は起きている時もくるくる表情が変わる。
シチューを食べれば満開の笑顔になるし、デンと遊んでるときはすっごく楽しそうにしてる。でもあたしが「もうちょっと女の子らしいかっこしなさいよ」と言ったら、途端に嫌そうな顔をする。すーぐ思ったことを顔に出す癖は、昔から変わらない。
 ああ、でも。あたしは気付く。
 この子の「泣いた顔」を、あたしは最近見ていない。
昔、男の子にいじめられて、泣きながら一緒に仕返ししたことがある。そんな悔し涙でさえ、あたしは最近見ていない。
 この子は旅に出ているわけだし、昔と違ってあたしがこの子の傍にずっとはいないから、見ているといった方が珍しいのかもしれない。
 けれど、この子の性格上、旅先で泣くことはないだろう。彼女の弟の前で、泣くことはないのだろう。それが痛いほど想像できるから、あたしは悲しくなる。
 誰の前でも、この子が弱音を吐かなくなったのはいつだろう。強がった態度を見せるようになったのはいつだろう。
 ああ、すべてはあの日から。この子たちが禁忌を犯したあの日から。
 昔はあたしと同じように泣き虫だった女の子。
 泣き虫だったお姫様は、いつから泣かないお姫様になって泣けないお姫様になった?
 せめてこの子がすべてを曝け出せる王子様が現れるまで。
「あたしはあんたの偽りの王子様になりたいわ」
 毛布を掛けてあげる。幼なじみは少し身じろぎしたあと、事もなげにそのまままた眠りに落ちていった。表情は笑顔。あたしはそれに苦笑する。
 あぁどうか今は、幸せな夢を見ていますように。



泣かないお姫様



(とにかくお題/squeezed orange

エド相手にお姉ちゃんお姉ちゃんしてるウィンリィさんが実に好みです。