「今日のクッキーは自信あんだ」
 にっかりと笑う「旦那さま」の声に、あたしは紅茶を飲むのを止めて、いったんテーブルに手を置いた。
 金色の髪をいつものように三つ編みにし、くまのアップリケがついたエプロン(あたしがプレゼントしたものだ)を着た彼は、にっこにっこと笑顔を振りまきながら、鍋掴みを付けた手でオーブンの天パンを持っていた。その上には、焼きたてのクッキー。自信作と自負していたように、それは型崩れもしていなくて、焼き色も綺麗。もしかしたら、あたしが作るのよりも上手いかもしれない。
「食ってみろよ」
「あ、うん」
 勧められるままに、あたしはクッキーを一つ手にとってみる。焼きたてといっても、余熱は冷ましていたようで、手にとってもそんなに熱くはなかった。そのままポイっと口に放り込む。さくっとした感触がしたあと、口の中にちょうどいい甘さが広がる。焼き加減も絶妙だ。
「……………どうだ?」
「おい、しい」
「だろっ?」
 だから自信作っつったろ?とエドは片手を腰に当てて、自信満々に笑った。まだ美味しいとしか言ってないのに、何なんだろうかこの喜びようは。あたしは思わず、ぷっと笑ってしまった。
 さっすがオレ様料理の天才、と自慢げに洩らす彼は、今やもう天下に名を残す鋼の錬金術師の見る影もない。料理だってあたしより上手くなったし、今日もしっかり主夫しちゃってる。そりゃあ、あたしが働いてるから反対に家事をやるのもわかるけど、でもエドの変わりように驚かないわけではなかった。
 昔から威張りんぼで怒りんぼで、亭主関白タイプかなって思ってたから、エドに主夫するよって言われた時は、ほんっとーにびっくりした。でも、意外にまめなところとか、凝り性のところとか、結構あってたのかもしれない。
「あ、そうだ。今日の晩飯何がいいよ?」
 片方の鍋掴みを外して、天パンの上にあるクッキーを自分もつまんだエドは、ふと思い出したように声を上げる。その姿は完璧に家事を任された主夫のものだ。
「んー、そうね。あっ、あたしロールキャベツが食べたい!」
「よっしゃ、任せとけ!」
 あたしはちゃっかり食べたいものをリクエスト。でもエドは文句も言わず作ってくれるようだ。天パンをテーブルに置いて。腕まくりなんかしちゃってる。そこまで気合い入れなくてもいいのにな、と思いつつも。でも実は期待しちゃうあたしがいる。
 クッキーをつまみながらの楽しいお茶会。あたしはエドの入れたお茶とエドの作ったお菓子で、存分にこの時間を満喫してる。いつまでもこの時間が続けばいいなってぼんやりと思うけど、でもそうはいってられない。あたしには仕事があるし、エドにはまだしなくちゃいけない家事がある。
 はぁ、さてこのお茶会が終わったら、愛しい愛しいこの旦那さまのためにもあたしは仕事を頑張りますか。そう考えて、エドお手製のクッキーをむぐっと頬張る。そうしたら、あんま欲張んなよとか何とか、エドの抗議の声が聞こえるけど。でもそんなのは全然気にしない。
 頬張ったクッキーはやっぱり美味しくて、あたしはふふっと幸せな気持ちになった。


02.家族



(エドウィン好きに100のお題より)