気まぐれなすれ違い



 ここは私立アメストリス学園。今日の授業も何事もなく終わり、下校の鐘が鳴り響く中、生徒達が清々しく家路に着こうと歩いている。しかし、その中に――――唸る少女がただ一人。
「重い。重い!おもーーいッ!」
「うっせーぞ。ウィンリィ」
 振り向きざまに金髪の少年―エドワードが同じく金髪の少女に呼び掛ける。両手に荷物を持っているウィンリィと呼ばれた少女とは対照的に、少年は手ぶらで飄々と歩いている。
「うっさくて悪かったわね。でも重たいものは重たいの!それを口にして何処が悪いのよ」
「悪いッつーか」
 会話開始からただ今30秒足らず。それなのに逆ぎれモード全開の幼なじみに、エドワードはハァっとため息を吐く。
「あのなぁ。重いんならンな律儀に持って帰んないで置き勉でも何でもすりゃあいいだろ!?」
 と、エドワードがあながち間違ってない事を言うと
「私はアンタと違って真面目なの!………………てか、勉強道具一切学校に持ってこないアンタに言われたくないわよ」
 ギロリと睨まれて吐き捨てられた。両手が荷物で塞がっているが、もし何も持っていなかったら指をエドワードの方にびしっと向けていそうな勢いだ。そんな(一方的に)びりびりとした空気の中、突如ウィンリィが視線を外した。
「そんな風なこんなヤツが学年1位なんて、世も末よね」
 ふっ、と視線を宙に彷徨わせてウィンリィは忌々しげに呟く。
「しかも模試まで1位!?何様って感じよ」
「おい」
「あ〜も〜!世の中間違ってる。そうとしか言えないわ」
「おーい。ウィンリィさーん」
「間違ってるといえばアームストロング先生も。なにもわざわざ今日美術の課題を返してくれなくたって。それに…………」
 尚もぶつぶつ呟き続けるウィンリィに、エドワードはまたしても盛大にため息を吐く。いい加減こんな道の真ん中で話しこんでたくないし、つーかサッサと家帰りてぇ。そう思ったエドワードはそっと彼女に近づいた。
「おい、ウィンリィ」
「へっ!?」
 さっきよりも近い場所で呼ばれて、何事だと顔を上げると、ふっと右手が軽くなる。思わず目の前にいる幼なじみを見やると、その手には先程自分が持っていた荷物が握られていた。
「………エド?」
「言っとくけどあとで礼は貰うからな!……重いっつーから持ってやるんだ。有り難く思いやがれ!」
「そ、か。………まあ、アンタ何にも持ってないからそれくらい当然よね!」
「ああっ!?何だと、てめぇ」
 あからさまに怒りをこめてエドワードは言うが
「………アリガト」
 と俯かれてお礼を言われては、どうすればいいのかわからない。ポリポリと頭を掻いて次の言葉を探す。
「あ〜〜〜〜。オラ!つっ立ってないでさっさと帰んぞ」
「う、うん。……………あ、そうだ。ねっ、エド」
 ついっと一歩踏み出してウィンリィがエドワードの横に並ぶ。その表情は悪戯を思いついた小さな子供のよう。
「あのさ。二人とも片手空いたことだし。手、つなごっか」
「はっ!?」
 思わぬ言葉にエドワードの声がものの見事に裏返った。少しの間があって、ウィンリィが慌てて言った。
「じょっ、冗談に決まってんでしょ!?ちょっ、やだ!なに本気にしてんのよ。冗談」
 だって!と続けて言おうとしたが、ウィンリィは言葉を止める。目の前には手が差し出されていた。
「手、つなぐんだろ?」
 ぶっきらぼうにそう告げられて、耳まで赤くなるのを自分でも感じる。
「えっ、あっ、ホント!?本当につなぐんだ。あっははは。そっか。うん。そっか」
 あははははと笑ってエドワードを見るが、そっぽを向いていてその表情はわからない。ひとしきり笑ったあと、意を決したようにウィンリィはエドワードへと手を伸ばす。
 そして、エドワードとウィンリィの手と手が触れ合いそうになる、

その瞬間。


「あっ、兄さーーん!ウィンリィーーー!!」


ドンガラガッシャ――――――――――ン


「あ、あ、ああああアルじゃない!?ど、どうしたの?部活は?」
「あ、うん。ホントは有るはずだったんだけどね。顧問のハボック先生の都合で自主練になっちゃって。帰りたいヤツは帰っていいって言ってたから、僕、帰ることにしたんだ」
「そ、そう!よかったじゃない!練習ばっかしてないでたまには休むことも必要よ!」
「うん。ウィンリィも部活は?」
「あ、あたしも今日はなかったのよ!偶然ね!」
「うん。あのさぁ、ウィンリィ」
「な、ななな何?」
「うん。…………あれ、何?」
 そう問いたアルフォンスが指を差したほうを向いてみると、そこには、道端に置いてあっただろうバケツを見事にかぶったエドワードの姿があった。先ほど持った美術の課題が回りにぶちまけられていて一種異様な雰囲気を醸し出している。
「な、何でもないわよ!ただのゴミの山よ!エドったらこんなゴミの中に突っ込んじゃって、やぁね〜!さっ、アル!こんな馬鹿は放っといて行きましょ!」
「へっ!?えっ!?ちよっ、ウィンリィ。押さないでよ!」
 グイグイと、今だにゴミの山と称された一画を見ているアルフォンスを押して、ウィンリィは家へと全速力で走りだす。
 タイミングがいいのか悪いのか、二人の姿が見えなくなったころ、やっとエドワードは頭からバケツを外した。
「………あと1センチ。あと1センチだったのに」
 少年の嘆きは風に流され、何処かでカラスがカァと鳴いた。