「なぁ、お前誘ってんの?」
「は!?」
 聞き返したときには時既に遅く、あたしはあっという間に押し倒された。



攻防戦は続く



「ぃったぁ…!ちょっ、いきなり何すんのよ?」
 ベッドの上に倒されてから、抗議の一言を一発。あたしの上に覆いかぶさっているヤツを睨みつけながら言い放つ。
 だってわけがわからないんだもの。
 今まであたしは至って普通だったはず。普通にエドたちが泊まっている部屋に洗濯物を置きにきただけのはず。それなのに、一体なんで「誘う」とかいう発言が飛び出してこるのか。謎にも程があるってものよ。
 いくら恋人だからといって、いきなり押し倒されて、はいそうですかと流されるあたしじゃない。それにこんな真昼間に、誰が流されてなんかあげるものか。眉間に皺を寄せて、きっ、とエドを睨みつける。
 けどあいつは、あたしが睨んでることなんて気にもしてないようで、逆ににやりと笑顔を作る。ぞくり。ちょっとした悪寒が、背中に走る。こいつがこんな顔をする時にはいっつもろくなことなんて無いのだ。あたしが微妙に怯えたのを気付いたのか、あいつはさらに笑みを深める。なおさら不気味に感じてしまう。
「いやぁさ、お前がそんな薄着してっから誘ってんのかなぁーって。据え膳食わぬは男の恥って云うだろ?」
「はぁ!?」
 つつつ、とあいつはあたしの格好を指差していく。あたしは今、チューブトップにつなぎという、割かしオーソドックスな格好をしていた。特別薄着なわけではない。むしろよくする服装だ。
「な、に馬鹿なこと云ってんのよ、早くどきなさいよ…!」
 なにが据え膳食わぬは男の恥だ。据え膳なんてあげた覚えも作った覚えもありゃしない。あたしはバタバタと暴れだす。
 もっとも男と女の力の差なんて歴然なわけで、いくらエドがちっこくても本気を出されればかなうわけがない。エドは押し倒した時からちゃっかりホールドしてたあたしの手首を、よりしっかりと握り締めてきた。
「ちょっ、エド、放しなさいって!エド、聞いてんの?ねぇ、エド?エ」
 ド!、と名前を呼ぼうとしてあたしは、けれど何も云えなくなってしまった。鎖骨の上辺りに、生暖かい感触がした。濡れた、感触もした。
 あいつの吐息を、直接間近に、肌で感じ取ってしまったのだ。
「………つッ…!」
 気付いた時には、鎖骨の上の皮膚が薄くなってるところにキスマークをつけられていた。おそらくも何も確実に、鏡で見ればテンと朱くなっているんだろう。じんわりとした痛みがそこを中心に広がっていく。
 エドはそのまま顔を上げないまま、いろんなトコに唇を寄せようとする。
「ちょ、っ…エ、ド…!」
「ウィンリィ」
 いつもよりも少し低い声で名前を呼ばれる。それにぴくりとあたしの身体が反応した。
 ずるい、と思う。エドは本当にずるいと思う。そんな声で呼ばれたら、そんな熱の篭った声で呼ばれたら、なんともいえない気持ちになってしまうに決まってるじゃない。
 しかもこいつの場合無意識にだからなお性質が悪い。
 ふとエドが顔を上げる。あたしの顔をじっと見つめてくる。
 その瞳は情欲にまみれていて、けれどその金の瞳に映るあたしも、結局は同じような感情を瞳に宿していた。
 なんだかんだ云いつつも、恋人に触れられるってのはやっぱり嬉しいものなのかもしれない。
 ああ、これはあたしの負けなのかしら。
 抵抗しなくなったあたしに気をよくして、エドはにんまりと笑ってあたしに口付けをしてこようとする。啄ばむキスを何度もされる。
 それが嬉しく感じるってことは、たぶんあたしの負けってことだろう。
 あたしは一気に身体の力を抜いて、相手に全部身を任せた。
 真昼間からこんなこと、と思うけど。これはあたしが悪いんじゃない、エドがけしかけてきたことなんだと思い返して何とか納得しようとする。
 生暖かい吐息が、あたしの身体の上を滑っていく。
 それに対して、少しの不安と少しの羞恥と一杯の歓喜を持ちながら、あたしはエドの髪を纏めるゴム紐を、ちょっと痛みを感じるようにといてやった。