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宵の刻。うとうとと眠りに就こうとしたその瞬間に、ホラー映画よろしくバンッといきなり自室のドアを開けられたハイデリヒは、突然の出来事に飛び起きた。
「……エ、エドワー…ド…さん……?」
振り向いた先にいたのは、同居人のエドワードだ。ドアのところにぬっとつっ立っている。こんな夜更けに何の用だろうか。ハイデリヒは当然の疑問を胸に抱いた。怖い夢でも見たのだろうか。いや、彼女はそれくらいで自分の部屋に来るような玉ではない。だったら、何故。ハイデリヒは首を傾げた。
「あの、何か用です…か?」
尋ねてみても、返事はなかった。これにはいよいよハイデリヒも訝しんだ。エドワードは、何も言わないままじっと彼を見つめている。その左手には彼女のベッドから持ってきたのだろう、枕が握られていた。
エドワードは、所謂綺麗な顔立ちをしている。大きな琥珀色の瞳もすっと通った鼻筋も桜色の形のいい唇も、そのすべてが彼女を美しいと裏付けている。だが、美しいものというのは、時に人を圧倒するものだ。無言で見つめてくるエドワードに、ハイデリヒは少し怯んだ。
「え、エドワードさん?」
冷や汗がつっと滴れてくる。思わずシーツを握りしめてしまった。返事もなく見つめられるという行為に、ハイデリヒの鼓動は次第に大きく脈打っていった。何なのだろうか何なのだろうか。考えても、自分には彼女の思考など想像も及ばない。こくり、と彼は息を呑む。けれども冷えきった喉は、徐々に確実に渇いていった。
ハイデリヒの緊張感が最大限に高まろうとした時に。しかしじっと固定されていた見定めるような視線を外さず、エドワードは口を開いた。
「なぁ、」
「は、はいっ?」
思わず声が裏返ってしまった。だが、ハイデリヒを慌てさせるようなことはこれだけで済むはずが無かった。ハイデリヒが自分の裏返った声色に疑問を抱くその前に。エドワードは何の躊躇いもなく、彼を驚愕させ慌てふためかせる言葉を言ったのだった。
「一緒に寝ようぜ」
云うや否や、ぽいっと枕が投げられる。そのコントロールの見事なこと。彼女の左手にあった枕は綺麗な放物線を描いて、見事ハイデリヒのベッドの枕元に着地した。
ハイデリヒは固まった。ぴしりと、まるで石にでもなったかのように固まっていた。だが、エドワードは彼の様子など気にせず、悠々と部屋の中に入り、彼のベッドに潜り込んだ。そのままうとうとと瞬きを繰り返し、すーっと寝入ってしまう。
ハイデリヒは、やはり固まったままだ。ベッドに寝転がるエドワードに気付く余裕もなく、ドアの方を向き続けている。だが、次第に近くにある暖かさを感じ取り、ずざっとその身を引いた。何がしたいんだ、この人!後の彼女の話によると「あー、なんか…人肌が恋しかったから?」ととんでもない理由を聞かせられるのだが、今のハイデリヒはそのことさえも知る由もない。
いつのまにやら寝息をたてはじめたエドワードに、ハイデリヒは本気で頭を抱えた。止むを得ない事情があるにしろ、何もない男女が一緒に住むこと自体不健全と感じているのだ。それどころか一緒に寝るだなんて、彼女はどのような神経構造を持っているのだろうか。ハイデリヒは頭痛がしてきた。
それに。ハイデリヒは眉を八の字にしてエドワードを見やる。彼女は自分を何とも思ってないからこのような行動がとれるのだろう。男として意識していないから、ベッドにも簡単に潜り込めるのだろう。まったく人の気も知らないで、とハイデリヒははぁと深いため息を吐いた。
ともかく、このままでいるわけにはいかないだろう。エドワードがここで寝てしまった以上、自分は別の場所で寝るより他はない。そう考えて、ハイデリヒはベッドから下りようとした。が、何かが引っ掛かってそうすることはできなかった。何だろうと振り向くと、自分の服の裾をしっかりと握り締めているエドワードの手が目に留まった。
ホント何がしたいんだ、この人!ハイデリヒは心の中で絶叫をあげた。握り込められた服の裾は、ちょっとやそっとじゃ彼女の手のひらから外れそうにもない。とはいっても、乱暴に振り払って彼女を起こすのは忍びない。
ずきずきとした痛みがハイデリヒの頭を襲う。動けない、ということは今夜はずっとここにいなければならないということだろうか。
ハイデリヒはちらりとエドワードを眺めた。くーっと寝息をたてる安心しきった寝顔。視線をわずかにこちら側に移せば、ぎゅっと 服の裾を掴んでくる小さな手のひら。目にした光景に、ハイデリヒは再び深いため息を吐いた。ああ、今夜は眠れそうもない。
崖っぷちで叫べ
(何だかお題/squeezed orange)
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