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ありえない。それがロイの到った結論だった。
だがそうした理解とは裏腹に、感情は否定しているのにも関わらずその甘さを伴って彼の胸に留まり続けていた。ロイは手に持ったペンを置き顔を顰める。眉根を寄せる。
結論づけた問題は、実際の所ありえない話でもないのだ、物理的には。
そう、万物の自然の流れのうちの1つと考えれば、この問題はそれほど珍しいものでもないのである。
だが、その事象自体と感情論は別個のものだ。事象自体を認めることと、それに付随する自身の感情を受け入れることは別物であるのだ。
ロイは一つため息を零した。何故彼女かと。如何して相手は彼女なのかとロイは頭を捻った。自身にはもっと、何処ぞの令嬢やそれこそ常に傍に在る自身にも他人にも厳しい己の部下など釣り合いが取れる女性はいるだろうに。それなのに何故彼女かとロイは目尻に皺を寄せた。だが、そこに芽生えた感情は理解を素通りして、小さくがさつで生意気な彼女を指し示す。不可思議だ。そう、いっそ不可思議にロイは感じた。
胃がもたれる。二日酔いでも具合が悪いわけでもないのだが、胃の調子が悪い。ここ最近ずっとだ。消化酵素は働いてくれず、胃の調子は自ずと悪くなる一方である。
だがそれも当たり前のことだろう。消化酵素など働くはずもないのだから。この胃に起因する痛みは、己の胸から落ちてきたものであるのだから。
ロイは渋面を作った。
胸中の甘さはぽたりと彼の胃に落ちて瞬く間にそこを巣食った。それとも、もしかしたらそうではなく胃の中の甘いものが胸に昇っていったのかもしれない。そっちのほうが感覚的に近い。だが、そんなことはどうだってよかった。重要なのは、そこここに残る甘さだ。甘い、感情だ。
何て物を食べてしまったんだろう。ロイは後悔する。あの名高い楽園にある林檎を食べたとしても、ここまで嘆きはしないだろう。
無意識のうちに食してしまった甘さをロイは盛大に後悔した。
それは彼女を思い出すたびにロイの胸中一帯を締め付ける。その痛みにこそ彼は彼女を思い出すといってもいい。甘さは消えやしない。つまり痛みが消えるはずもなく彼は彼女を常に胸に抱いたまま。
そのことをロイは頭では理解している。だが納得いかないとばかりに「ありえない」と結論づけたのだ。
自分が彼女にそのような感情を向けるなど、馬鹿らしいありえない。
そうした消化酵素をロイは日々胃に流し続けている。
いい加減その甘さなど消えてなくなってくれ。彼女に対する甘い感情など何処かにいってくれ。
だがやはり消化酵素は働かず、むしろそのことを考えれば考えるほど甘さは嘲笑うように彼の全身に行き届いていった。
トントン。ノックの音が聞こえる。「オレだけど」、よく通るメゾソプラノが響く。
ロイは思考を止め入室許可の声を上げる。そうして入ってきた鮮やかな赤に、ロイの胃がまた少し重くなった。
赤い華を喰らう。
14も歳離れた小娘に恋心を抱くんですから。増田は本格的に自覚するまで色々と葛藤すると思います。
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