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シングルベッド
夜の闇にさえ融けやしない漆黒の瞳が先程から自分を見つめている。背中を向けているのでその瞳が何を言いたいのかはわからないが、ずっとそうしていられるのは正直こっちが疲れる。
「なぁ、さっきからいったい何なわけ?」
エドワードは疲れからくる眠たさを振り払うように、ベッドに沈めていた身体を反転して隣にいる男に問い掛けた。まさか振り返られるとは思ってもいなかったのだろうか、男は一度きょとんとし、そしてその後嬉しそうににこりと笑った。
「いや、君の髪はいつ見ても綺麗だと思ってね」
ニコニコしながらそう言われて、エドワードは思わず破顔した。何を言っているんだろう、この男は。もしかしたら夏の暑さにやられたのかもしれない。
「何?頭沸いてんの?」
「さすがにそれは失礼だぞ、鋼の」
思ったことを口に出したら、すばっ、ときり返された。どうやら脳は正常に働いているらしいが。
「アンタがいきなり変な事言うからだろーが」
エドワードは目の下に皺を刻む。
「つーかオレの髪の何処が綺麗なんだよ」
こんなバサバサなのに。言いながら、肩まである自分の髪を手でぐしゃぐしゃと梳いた。
「ああ、確かにもう少し手入れしたほうがキューティクルが増すな」
「いや、そんな問題じゃねーし」
「大体、宿をとれない時は野宿という考えが間違っている」
「だからそーゆー問題じゃ」
「まったく。君は女の子なんだから少しは身嗜みを気にしたまえ」
はぁ、と深く息を吐きながら筋違いな方向に話を展開させるロイの胸辺りに、エドワードはごすっと強烈な突っ込みを入れたい気分になった。そんな様子を知ってか知らずか、たぶん知らないだろうが、ロイは拗ねたように言葉を紡ぐ。
「せっかく綺麗な金色だというのに、もったいない」
「はぁ!?つーか、こんな色の髪だったら世界中にごまんとあるだろ」
訝しげな顔をしながらエドワードは自分の髪を一房摘む。それがおかしかったのだろうか、ここぞとばかりに盛大に笑われた。
「な、なに笑ってんだよ」
「いや、確かに金の色素を持っている人間はたくさんいるがね。それとこれとは話が違う」
優しく、諭すような声色。
「あぁ!?何だよ、それ。全っ然意味わかんねぇ!つーか、だったらなんだってーんだよ!?」
「それは……」
ロイは一旦、口にしようとした言葉を飲み込む。そして楽しげに笑いながら、すうっと目を細めた。その表情は柔らかだ。エドワードはおもわず怯んでしまう。
「な、なんだよ…!?」
「………この金色の髪は」
そっと、ロイはエドワードの髪に手を伸ばす。
「君だからこそ美しいんだ」
言ってロイは、その髪に口付けを落とした。普段から金の糸と見間違う程に光を放っているソレは、窓から覗く月の光を浴びて一層輝きを増していた。
「バッカじゃねーの」
「私は至って真面目だよ」
言いながらベッドに潜ってしまったエドワードを、ロイはクスクスと苦笑を零して布団ごと抱き締める。夜なのに、広がるのは太陽の匂い。
「………放せよ」
「嫌だと言ったら?」
「だーもー!放せ!放せって、この変態ッ!」
「相変わらずつれないね、君は」
バタバタと暴れるエドワードを解放する。少しの沈黙のあと、ようやく布団から出てきたその顔は見事なまでに真っ赤だった。その姿がなんとも愛らしい。ロイは自然と顔を緩める。
「愛しているよ。エドワード」
そう耳元で囁いても、
「うっわー。ソレすっげー最悪」
返ってくるのは完全無欠の拒否の言葉。それが自分達らしくて2人で笑う。
月が隠れて、いよいよ暗く、部屋はますます闇色に染まった。
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