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たくさんなくしてしまったけど
窓からはやわらかな光が差し込んでくる。細かな粒子のはずなのに、部屋はそれだけで輝きに溢れてくるようだった。腕の中には小さく柔らかい温かなもの。エドワードは微笑した。
病院から帰ってすぐにアルフォンスから安静にしていろとこうしてベッドにはいるものの、しかしエドワードは横になってはいなかった。起き上がって腕に温かなものを抱いて、そしてふんわりとした笑みを向けていた。
この温かな存在が十数時間前までは自分の腹の中にいたと考えると、それは甚く滑稽で非道く愛しく感じられる。エドワードは腕の中の存在を優しく撫ぜた。
ぽやぽやと生えた薄金色の髪と、先程からじぃっと見つめてくる蒼い瞳。それら全てが、父親の遺伝子を見事に引き継ぎエドワードに指し示している。
あぁ、なんていとしいいとしいいとしい。
この子の父親がこの場にいたら、彼はどのような反応を見せたのだろうか。恐らくは、少し照れて焦ったあとに、やわらかな笑顔を向けてくれたことだろう。あたたかい微笑みを、その顔に浮かべたことだろう。それは彼がエドワードに常々向けていた感情と同種のもので、甘やかさを孕んでいたことだろう。
エドワードはそっと目を瞑る。そして何かを断ち切るようにゆるりと頭を振るい、頭に過る「不可能性」を消していった。
その時に、きゅっと彼女は人差し指を掴まれる。見てみると、腕の中にいる小さな小さな女の子が、エドワードの指をぎゅうっと握り締めていた。握り締められた指は容易は抜けず、思わず何処にこんな力があるんだとエドワードは苦笑してしまう。そして同時に、思う。もしかしたら、慰めてくれたんだろうか、と。周囲に敏感なこの愛しい存在は、近くにいたエドワードの胸の内に気付いて、それで彼女の指を握ったんだろうか、と。そうであったのなら、どんなに自分は腑甲斐ない母親であろう、とエドワードは苦笑いを零した。
ゆるゆると握られたままの人差し指を揺らしてみる。愛し子は決して彼女の指を離すことはなく、じっとエドワードを見つめていた。
薄い金髪と蒼い瞳は、思い出す程に愛しく泣きたくなる、自分の罪を具に知らしめる青年の象徴。
だがもう1人、エドワードの頭を長い髪が掠めた。
しかし掠めたのと同時に、それを打ち消すようにばたばたと慌ただしい足音が聞こえてきた。部屋の扉が開かれる。
「あーっ、やっぱり。姉さんったら、まったくもう。安静にしてろって言ったじゃないか」
突然の来訪者に、ぱちくりとエドワードは瞬きをした。だが掴まれていない人差し指を口元に持っていき、彼に静寂を促した。アルフォンスもはっとなり、喧しく説教をしようとしていたところを慌てて口をつぐんだ。エドワードに抱かれる赤ん坊は、彼女の指を握ったまま。
エドワードの頭に、再び長い金髪が過る。その姿は、もう会うことはない親友のもの。唯一の親友である彼女はいつも、自分を慰めてくれていた。いや、自分が彼女を慰めていたのだったか?思い出そうとしても真実は何故か自分の都合のいいように朧気で、だけれど彼女がとてもやさしく強くあたたかな存在だったことは確かだった。エドワードは不意に腕に無垢の重さを感じ取る。嗚呼、嗚呼、出来るのならばこの子も 。
アルフォンスは音を立てないようにエドワードに歩み寄る。そして小さな存在が泣きださないことにほっと胸を撫で下ろした。エドワードも再び腕の中に目をやる。蒼い瞳がじっと自分を見ているのを確認して、そうして、甘やかな笑顔を浮かべたあと、彼女はアルフォンスに向き直った。
「なぁ、アル。この子の名前、決めたよ」
少し苦笑気味に、けれどもすっきりとした表情で、エドワードは続けて口を開く。
さらさらと流れる光の粒子に混じって、彼女の言葉は殊更優しく部屋中に溶けていった。
(何だかお題/squeezed orange)
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