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マフィアランドに行くためには、余程のことがないかぎりそれ専用の豪華客船に乗って目的を目指すのが基本である。世界各国にその航路は張り巡らされており、それは昼夜関係なく運航している。マフィアランドには開園時間等というものはない。ただし、その豪華客船の始発こそが、実質的な開園時間だといってもいいだろう。朝早くのその便は、AM9時ごろには既に目的地へと到着していた。
マフィアランドに行きました。(バジル君と一緒編)
島に住み着いている鳥たちがピチュピチュと囀りあい、朝特有の冷たい風が吹いている頃。マフィアランドに本日最初の便が到着した。ぞくぞくと乗客たちが降りてくるなかで、金に近い淡い茶色の髪を無造作に跳ねさせた女性と、その色が少しくすんだような色の髪をもつ青年の2人が一組。
「うっわ、朝一番の船で来たってのにすっごい人だねー」
前を行く人を見ながら、ツナはうはぁーと感嘆のため息を漏らした。船に乗っているときには気付かなかったが、相当な人数がここ、マフィアランドに向かっていたらしい。人がごった返している。
入島手続きを済ませて連れの元に戻ってきたツナは人が溢れかえっている前方を見つめながら苦笑を洩らした。
「本当に、このようにこれほどまで人が大勢いるとは思ってもいませんでした」
ツナにつられるように前方を眺めて、バジルは目をぱしぱしと瞬かせた。ツナは驚いているバジルの方に向き直り、だよねぇー、と笑みを浮かべた。
こうしてツナとバジルがマフィアランドにくるというのは、実は今回が初めてのことだった。
バジルは今も家光に付いて各国を回っており、なかなかツナに会う機会もない。このように2人でマフィアランドに来ているということは、数少ないツナの休暇中にバジルたちがボンゴレ邸を訪れたという偶然に偶然が重なった、ある種奇跡のような確立で起こったようなものなのだ。
ちなみに今回、バジルと供にボンゴレの屋敷を訪れた家光も一緒にマフィアランドに行くという話になりかけたのだが、何でこの年になってまで父さんとテーマパーク行かなきゃなんないのさ、と反抗期の娘のごとくツナに一蹴されてしまい、家光の願いは叶わなかった。親方様が行かぬのなら拙者など…、とバジルは家光に遠慮して誘いを断ろうとしたが。いいからいこうよ、ね?バジル君、とツナににっこり笑ってお願いされてしまえば、ぐぅの音も出ない。家光に対して申し訳なさそうにしながらも、今朝2人豪華客船に乗り込んだわけである。
今頃ボンゴレの屋敷のなかでは、娘に拒否られてたと嘆きながら、家光が膝を抱えていることだろう。
どんどん人が流れに沿って、奥へ奥へと流れていく。こんなに人がいちゃああんま朝から来た意味ないなぁ、とツナは立ち止まったままぼんやりと人の波を見つめた。
だが、だからといって、ここで立ち止まったままでいたら、それこそ本末転倒である。よし、とツナは気合いを入れ直して鞄の中をごそごそと漁りだした。
「あ、あったあった。はい。バジル君」
「えっ、あ、ありがとうございます」
ツナは鞄の中から屏風折りになっている紙切れを取り出して、バジルにはいと手渡した。マフィアランド内の地図と、各アトラクションや建物についての説明が載っている、この島内のパンフレットだ。入島手続きの際にカウンターに置いてあったものを、ツナは2枚持ってきたのだった。自分の分も鞄から取り出す。
「どれから乗ろっかー。結構迷っちゃうよね」
実際もここには楽しいモノが一杯あるのだが、パンフレットに載っているとより魅力的に見えてくる。
パンフレットを広げながら、ツナがバジルにまずはどこに向かおうか尋ねてみる。するとしかし、彼は答えることなくパンフレットを凝視してみたり、あちらこちらをきょろきょろと見つめていたりしていた。
「あの、えっと……バジル、君?」
「え…?あっ、すみません!」
どうかしたのか問い掛けようとしたツナに、バジルは勢い良く頭を下げた。そして顔を上げて、恥ずかしそうにぽりぽりと頬を掻いた。
「その…、今まで拙者はこのような場所を訪れたことが無いので、つい物珍しく……」
そう云いながら再びちらりと近くの建物を見つめる。そんなバジルの言葉と姿に、ツナはああと納得した。
バジルは幼い頃から家光に付き従い、ずっと修業をしてきていた。幼少時代からの師は尊いらしく、家光のことを親方様と慕い、その実、家光の実の娘であるツナよりもその絆は深いように思える。だがしかし、いくら2人の関係が非常に有効的なものであったとしても、誰が中年の親父と少年の2人連れでテーマパークに来ようというのか。
「そっか、そりゃ父さんと2人でこんなトコ来るなんてありえないしねぇー」
うんうん、とツナは首を縦に振って納得する。バジルは苦笑しながらも、ちらちらと辺りの様子を興味深げに見回していた。ツナはそのバジルの様子に決意を固める。
「よっし、じゃあ今日はバジル君が主役ってことで!」
言って、ツナはバジルとの距離を詰めた。1枚のパンフレットを2人で見るかたちになる。
「どれがいいかな。どこ行きたい?」
「いっ、いえ、拙者が決めるなんて…!沢田殿のお好きなもので」
「ダメだよ、今日はバジル君が主役なんだから!バジル君の行きたいトコに行こう?」
せっかく、それも初めてテーマパークに来たのなら、思う存分楽しんでもらいたい。そう思ってツナはバジルに視線を送る。しかしバジルは狼狽えたまま、ツナの申し出を断った。
「いえ、本当に。拙者が決めるなどそんな、おこがましいにも程があります…!」
眉を下げて、申し訳なさそうに首を横に振る。
バジルはいつもそうだ。
もともと彼は自分の意見を引っ込めてしまう癖があるが、ツナの前だとそれは特に顕著となる。出会ってもう10年が経っているのに、まだまだツナに遠慮をしている節が見て取れた。それが、ツナがボンゴレのボスであるからか、“親方様”の娘であるからかはわからないが、ツナはそれが少し悲しかった。
「あの、さ。バジル君。そんな、遠慮なんかしなくても…いいんだよ?」
「えっ……?」
尚も首を横に振り続けるバジルに、ツナは眉をわずかに下げながら語り掛ける。
「遠慮なんかしてもらいたくないし……ってかオレ相手になんか遠慮する意味全然ないし!それに、遠慮しっ放しだったら疲れちゃうだろ?オレは自然体なまんまのバジル君と、ずっと一緒にいたいよ」
静かに、苦笑して云う。黙ったまま聞いていたバジルは目を見開く。だが次の瞬間、かぁーと顔を赤らめていった。
「さ、わだ、どの…?」
今のツナの発言は、バジルが自分にこれ以上遠慮しないためだけに云ったことなのだが、聞きようによっては熱烈な愛の言葉とも受け取れる。急に顔を赤くしてしまったバジルに、ツナは不思議そうな顔を向ける。何かオレ変なこと言ったっけ?そう思って自分の言葉を反芻してみて、ツナはバジル以上にボンと顔を赤く染めた。
「い、いやっ、違くて!そ、そーゆー意味じゃなくてッ」
顔からぷしゅうと湯気が出そうになる。あぁもう何言ってんだか、オレ!と後悔しても後の祭りというものである。
2人してまごつくこと数分。それからバジルが、ツナに声を掛けた。
「あ、あの、沢田殿」
「なっ、何!?」
「それでは拙者は、ここに行ってみたいのですが」
「えっ、あっ!3Dシアターかっ。うん、行こ行こッ」
さぁ行こうやれ行こうと、ツナはその方角へと足を進めた。バジルもそのあとに付いていく。その2人の顔が赤いのは、少しも変わりが無いようだった。
島内にいる鳥がぴちゅりと鳴く。朝特有の冷気は未だ身体を包みこんでいる。
今日はまだまだ、始まったばかり。
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