「お、美味しいです!」
「ほんとー!?よかった」
 土曜の午後のファーストフード店は、それなりに混んでいる。お昼をここでという家族連れや恋人同士・主婦同士が、小さくも大きくもないテーブルを囲んでいた。ツナとバジルもそうだ。トレーを2つ置けばスペースが無くなってしまうちょうど日陰の席で、今まさに安いランチを堪能しようとしていた。
「口にあわなかったらどーしよーかと思ったよー」
 そう言って、ツナはホッと安堵の息を吐いた。何せバジルはツナのオススメを頼んだのだ。そりゃあものすごーく自信を持っておすすめはしたものの。相手は長いこと外国にいたし、そもそも生粋の外国人だ。日本人とは味覚が違うのかもしれない。
 バジルがハンバーガーを口にするまでツナは少し不安だった。口に合わなかったらどーしよー。嫌いな味だったらどーしよー。頼んだ飲み物にストローをさすこともなく、ツナはバジルを見守っていた。
 だが結局は、美味しいと言ってくれて。ツナは自分で作ったわけではないけれど、しかし我が事のようにとても嬉しく思ったのだ。
「とんでもありません。甘辛いソースとマヨネーズがマッチしていて、とても好みの味です」
「そっか。だよねー。オレもそー思う」
「これが、テリヤキ、なのですか?」
「うん。まぁ、家で作る照り焼きとはだいぶ違うんだけどね。でもここのテリヤキバーガーは格別だと思うんだ」
 無意識に、ツナはにこにこしてしまう。視線の先のバジルは、ほぅと感心深そうに食べかけのハンバーガーを眺めていた。
 きっとバジルのことだ。例え自分の口に合わなくても「沢田殿の面目のため」美味しいと言ってくれていただろう。だが実際、彼はパクパクとテリヤキバーガーを食べていた。これは本当に美味しく思っているということではないだろうか。ツナはホッとすると同時に、何だか無性に嬉しく思った。誰だって、自分が好きなものが誉められれば悪い気はしないものだ。
「沢田殿は、」
「ん?」
「召し上がらないのですか?」
「あっ」
 にこにことバジルの行動を眺めていたツナははたと動きを止めた。ははっ、と苦笑を零してしまう。バジルがテリヤキバーガーを気に入ってくれるかどうかだけを気にして、すっかり自分のことを忘れていた。自分の馬鹿さ加減に呆れつつ、ツナは苦笑いを浮かべながらハンバーガーを手に取った。
 ツナが頼んだのも、もちろんテリヤキバーガーだ。バジル一人にオススメを食べさせるのは忍びなかったし、何より自分が食べたかった。包装紙を適当にとって、はむっとかぶりつく。バジルの言った通り、甘辛いソースとマヨネーズの組み合わせが絶妙なコンビネーションを奏でている。
「ん、うまい」
 久しぶりに食べた味はいつもと同じく美味しかった。ハンバーガー自体は正直、最後に上のパンが足りなくなっちゃったりレタスがこぼれ落ちそうになったり、すっごく食べにくい食べ物だとツナは思っている。だが、それでも中毒性があるというのだろうか。何度だって食べたくなる味なのである。それにバジルだって、一応は気に入ってくれたようだ。昼食を食べにどこに入ろうか迷いに迷って決まらなくて、最後の手段とばかりに入ったファーストフード店だったが。ツナはここに来てよかった、とぼんやりそう思った。
「あ、沢田殿」
「ん?」
 だから、ボーッとしてたのかもしれない。バジルの手が徐々に近づいてきても、ツナは何にも不思議に思わなかったし特に身構えもしなかった。何にも気にせず、ただバジルに目を向けた。
「ついています」
 そう言って、バジルはツナの口元にちょびっとついていたテリヤキソースを指の腹で拭ってきれいに舐めとった。その間、約3秒あまり。
 ツナは最初何の反応も見せなかったが、バジルの指先が彼の口元まで行くのを目で追って、そりゃあもうボフンと全身から湯気を出した。
「んなっ、なっ、なッ!?」
「えっ………あ、あっ!」
 目を丸くするツナに、バジルははたと自分の行動に気付き、狼狽えた。ツナと同じように、茹でタコみたいに顔が真っ赤になっていく。ツナもツナで、何も言葉を絞りだすことも出来ずあわあわと狼狽していた。
「も、申し訳ありませんっ」
「い、いや!別に!」
 しばしの沈黙が二人を包む。
 ツナもバジルも動けないし、視線を交わすことも出来なかった。
「た、食べましょうか」
「そ、そうだね」
 目線をあわせないまま、ツナとバジルはもそもそと食事を再開させた。ツナは食べかけのバーガーを1口食べる。冷めかけのテリヤキバーガーは、それでも焦るツナの気持ちとは裏腹に美味しさはゆっくりと口の中に広がっていった。



花は崩れて溶け落ちる




(何だかお題/squeezed orange