指一本も触れられぬヨコシマな純情



 前に進もうとして包帯に足を取られてこけたファラオ、もとい獄寺の元へツナたちは駆け寄り、そして何とか自力で起き上がることは出来た彼と視線を合わせるように、ツナはその場にしゃがみこんだ。彼は顔面から地面に激突したのだ、先日の対戦のときの怪我とも相まって相当に痛いだろう。
「だ、大丈夫?獄寺君!?」
「こ、このくらい全然平気っすよ…!」
 真剣な目でツナは獄寺の様子を伺う。そんな彼女に、全身に巻きつけられた包帯に足を取られて転ぶなどという思わぬ失態を見られてしまった獄寺は、羞恥で少し顔を赤くさせ冷や汗をかきながら、それでも大丈夫だということを証明しようとした。語気荒く、まったくもって平気なことを伝える。
 その彼の反応に、それならいいんだけど、とツナは怪我の具合を気遣うように云って、そしてほっと安堵の息をついた。今の転倒の衝撃で、傷口が開いてしまったらたまったものではない。
「それにしても、この包帯の巻き方すげーな」
 それまでツナと獄寺のやり取りを傍観していた山本が不意に口を開く。そのいたく感心したような彼の声色に、獄寺はあぁ!?と彼を睨み付けるが、如何せんしゃがみこんだ状態の上、ファラオなのできまらない。なおかつ、獄寺も山本と同じことを思っていたのだろう。顔逸らして舌打ちをしてから、彼の治療に当たったロマーリオへの恨み言を呟いた。
「あー確かにこの姿は、ちょっと………すごいよね」
 何せ獄寺が現れたとき思わずファラオと叫んでしまったのだ。ツナは先程の自身の言葉を思い浮かべ、少し悪かったかなと思いながら再び獄寺を見た。
 全身に渡ってぐるぐる巻きつけられている包帯は、ロマーリオには悪いが治療に役立ってるとは思えない。顔の傷を見た限りでは、きちんと怪我をした場所それぞれにそれ相応の手当てがしてあるのだ。
「この包帯、取っちゃってもいいのかな?」
 少し思案した後、ツナは思い切って聞いてみた。獄寺はその彼女の質問に力強く大丈夫でしょう!と言うが、しかしここまでそのファラオ状態で歩いてきたのだ。彼も全身に巻かれた包帯を取っていいのかどうか多少不安に思っているのだろう。
 ツナはとりあえずぐるりと視線を周囲にいる人たちに回してみて、どうしたらいいのか目線で尋ねてみた。大方がツナと同じく包帯を取ってもいいのかどうか半信半疑であったが、小さな家庭教師だけが呆れ眼な視線をツナと獄寺に送りつつ、大丈夫だろ、とため息をついた。
「そっか。それなら、これ取っちゃおうか。包帯の所為で歩きづらそうだし、それに……その、この包帯、あんまり意味、なさそうだし………」
 最後のほうは、わざわざ獄寺の治療を快く引き受けてくれたロマーリオに申し訳なくなり小声になっていったが、ツナは獄寺に提案してみた。
 彼がその提案に乗りそして頷くのを見とめてから、彼女は彼の包帯の状態を確認するように眺めた。白い包帯は幾重にも重なりぐるぐると獄寺の全身を覆い隠している。
「ほ、包帯の端ってどこなんだろ……?」
 あまりの巻かれっぷりにツナはどこに包帯の端があるのかわからなかった。それが見つけられないと、はずせることができるものもはずせやしない。ツナはしゃがみこんだまま包帯の端っこを見つけるべく、じぃっとぐるぐると獄寺に巻きつけられた包帯を見つめた。
 獄寺自身も当然、端を探し出そうと全身を見てみようとする。彼らの周りにいる者も彼らを助けようと少し近づいて、包帯の端発見のために手を貸した。
 そうした行動の中。
 獄寺は、たとえ自分の全身に巻かれた包帯を取るためだといっても、視線を一斉に浴びると言う事態に多少不機嫌になりキレそうになった。が、しかし他の誰でもないツナが一番真剣に包帯の行方を追って自身を見ているという状況に、あまり怒るに怒れなかった。そしてそれと同時に、自分が彼女に抱くにはあまりに分相応な、妙な感情が彼を襲っていたのだった。
 ツナが獄寺に目線をやっているのは、包帯の端を見つけるためでしかない。しかし彼女が自分を見ていると確認するたびに、意識するたびに、異様に心拍数が上がるのだ。真剣に包帯をはずそうとしてくれている彼女に対して、なんて不謹慎なんだと獄寺は心を落ち着かせようとする。が、バクバクと脈打つ動悸が治まる傾向は一向に見られない。
「あ、ここではないですか?」
「えっ、どこどこ?」
 バジルの言葉に、ツナは彼が指す場所に目を向けた。わき腹の辺りに、確かに包帯がテーピングされている場所を見つけることが出来た。
「ほんとだ。よしっ」
 ツナは包帯のテーピングをはがそうとする。なかなかに接着性が強く簡単にははがれなかったが、それでも何とかテーピング部分をはがすことに成功すした。はずした包帯が重力に従ってたらりと垂れ下がる。
 それを手に取ってくるくると、ツナは獄寺の全身に巻かれた包帯を取り外していく。彼の正面にしゃがみこんだまま、片方の手ではずしていった包帯を背に回したもう片方の手に持ち替えることを繰り返して、くるくるくるくるはずしていく。そうすることによって、自然、ツナは獄寺に抱きつくような体制になってしまった。
「じゅ、10代目っ!?」
 これに獄寺は慌てた。そりゃあもう物の見事に焦った。包帯の端を探しているときも近距離ではあったわけだが、この状態はその域を越している。というよりも彼はそのようなことを考えている余裕もなく、ただただ彼女の取った行動に戸惑い、そして狼狽した。
 白く華奢な彼女の手が自身の背に回され、先程より密接してる所為で彼女自身が発している甘い香りが鼻腔を擽る。
 煩いくらい心臓が脈を打っている。外に聞こえてしまいそうだ。身が持ちそうになくこの状態を打破しようと獄寺は口を開こうとするが、まったくもって声にならない。パクパクと口を開閉し、真っ赤な顔で固まっている。
「ん?どうかした?」
 獄寺の様子のおかしさに、包帯をはずしていったツナがそのままの状態で視線を上げる。当然、ばちりと獄寺と目が合う。ツナがこのとき上目遣いになるのは、2人してしゃがみこんでいても身長差があるのだ、致し方のないことだろう。そうして何秒か見つめあったあと、ふらぁと獄寺が後ろに倒れた。赤い顔そのままに、バターンと勢いよく倒れこんだ。
「ちょっ、獄寺君!?獄寺君っ!?」
「獄寺殿!?」
「どうしたのだ、タコヘッド!?」
 ツナたちの呼びかけにも獄寺は返事を返さない。否、返事を返せない。包帯が解けかけた状態で硬直したまま地面に転がっている。
「な、なに?どうしたの!?しっかりしてよ獄寺君っ!」
 ツナが必死に呼びかけてみるが、獄寺はやはり固まったまま。
 遠巻きにその様子を見ていた山本はははっと苦笑を漏らし、リボーンは頭を抑えてため息をついた。






(何だかお題/squeezed orange