なんだかなー、とツナは思った。嫌がるわけも拒否るわけも絶対ないのになんだかなー、とツナは思っていた。これ以上ダメージを受けさせないように、視線を向けたことに気付かれないようちらりと横を盗み見てみる。だが、隣を歩いてる人物にはその気遣いさえ無意味だった。ツナが視線を寄越したことなどまったく気付かず、獄寺隼人は平静な態度で隣を歩いていた。気付かれないようにした、だがばればれなツナの視線を気付く素振りも見せないくらい、彼は平静を装おうとしていた。
 はぁー、と1つツナはため息を吐く。やはり原因はさっきのことなのか。ツナは1人考える。もんもんもんもん。ぐるぐるぐるぐる。時には後悔だって押し寄せる。だが後悔したって仕方がない。だってあれはただ単純にタイミングが悪かったのだ。


 夕日もまだまだ差し込まない下校途中。獄寺と帰る道程はそんなに話題に事欠かなかった。宿題めんどくさいよねーとか駅前に新しい店が出来たらしいっすよとか今日また実験でビーカー割っちゃったよとかあれしきのことで割れるビーカーが悪いんですよとか。ツナが話し掛けたり、獄寺が話し掛けたり。とりとめのない他愛もない話が、2人の間で続いていた。のんべんだらりとだらだらと。くだらない話で笑いあいながら帰るのは、付き合う前とおんなじだ。だいたい、付き合うようになったからって、ツナと獄寺の行動は根本的にはなんにも変わっちゃいなかった。
 付き合う前だって、暗殺者に狙われたら大変だと獄寺がそりゃあもうツナがありがた迷惑だと感じるくらい心配して登下校が一緒の時は多かったし、2人でいることもよくあった。それにデートだって、明け透けに言えば単に2人で遊ぶってだけだ。デートって言葉の感触に、やっぱりちょっとはドキリとすることはあるけれど、でも別にそんなの普通のことで、いまさら身構えるようなことでもなかった。
 付き合ってまだ数ヶ月しか経ってないのにまるで倦怠期をむかえた人みたいだ、とツナはときたまそう思う。でも、それが悪いと思ってるわけじゃない。
 それに、変わんない変わんないと感じてるけど、付き合ってから変わったことももちろんあった。スキンシップというか何というか。そりゃまあ前とは比べものにならないくらい触れ合うことが増えたわけで。
 学校から家に2人っきりで帰る時、手を繋ぐようになったのもそのいい例だ。
 今日だって無論その例に漏れていない、はずだった。学校から出てしばらく経って、いつものように獄寺は恐る恐るツナの手を取ろうとした。だがその瞬間、獄寺の行動にまったく気付いてなかったツナがちょうど振り向き、あのさ、と声を掛けた。その所為で、獄寺は手を繋ぐタイミングを失ってしまったのだ。その場から100メートルくらい離れた今も、彼は手を繋ぐタイミングを掴めず、どうしたものかと俊巡していたのだった。


 なんだかなー、とツナは思う。声を掛けた時の獄寺の慌てっぷりとその後のしどろもどろ具合に、彼がその時何をしようとしてたのかなんとなくわかってしまった。
 獄寺の手のひらはカチンコチンに固まり、ぎこちなく握って開くことを繰り返す。彼の表情も、ツナとの談笑中のくせにいつもより眉間にしわが寄っているようだった。
 付き合ってどのくらい経ってると思ってるんだよとか、いい加減慣れなよとか、ツナは未だ空虚な手のひらの感覚に悪態をつきたくなっていた。ちらりともう一度獄寺を盗み見てみる。深く刻まれた眉間のしわだとか泳いでる翠の目だとか、獄寺はまだ今一つタイミングを掴めてないようだった。
 ツナだって女の子だ。何でもかんでもってわけじゃないけど、こういうことは男の子の方からしてほしいと思っている。特に付き合うっていう経験をするまでは、そんなこと当たり前だと思ってた。自分から行動を起こすのは恥ずかしい。恥ずかしくて恥ずかしくてたまんない。
 ツナははぁっとため息を吐いた。
 でも、それはフェアじゃないだろう。それにだって相手はあの獄寺くんだ。ツナのことが好きで好きで仕方なくて自分達が両想いだって知ってるくせに、触っていいのかどうかもわかんなくなる、おバカなことで頭を抱える困った人だ。
 ツナは苦笑する。会話が途切れるたびに顔を赤くして挑むような表情を見せる恋人が可愛く思えて仕方がない。実際は、フェアだとかフェアじゃないとかは関係ない。要は自分だって手を繋ぎたいんだ。
 ぎこちない動きで迷ってる獄寺の手を、ツナは何気ない動作で掴み攫った。
「じゅ、10代目……!?」
「なに?」
「い、いえっ……その」
「あっ、そーだ獄寺君。今日時間もあることだしさ。その駅前の新しい店行ってみよーよ」
 慌てる獄寺に苦笑する。それでも間もなくぎゅっと握りしめられた手のひらに、ツナはわっとびっくりした。繋いだ手は離れない。離さない繋がれた手のひらはぷらぷらと2つ重なって無防備に揺れていた。



いっしょにいこう




(何だかお題/squeezed orange