|
泣き出したくなるような嬉しさでありスキップしたくなるような悲しさでもあり
うきうきわくわくどきどきそわそわ、なんて気持ちは不可抗力によってこんなにも無残にも消されるものなんだな、とツナは改めて実感した。
何やかんやと色々あって、ツナが雲雀と付き合うようになってから約3週間目のこと。
普段は学校内の、主に応接室で一緒にいることが多かった二人だが、「この前、美味しいお店見つけたんですよ」というツナの何気ない言葉が発端となって、今度の日曜に外で会うことになった。
雲雀と街を歩くことは、初めてではない。放課後に、たまにぶらりと駅前を歩くこともあった。だがしかし、今回のそれはそれとは少し違う。学校で会ってからというわけでなく、外で待ち合わせをして一緒にいるというのは初めてのことだ。
初デート、というのはかなり間違ってはいるが、気分的には初デートといってもさほど過言ではない。
だからツナは、日曜が近づくにつれ、気が気ではなかった。ドキドキと高鳴る鼓動の所為で、その前日であった昨日はいつものようにすぐさま眠りに就けなかったほどだ。
肝心の日曜である今日。珍しく、物凄く珍しく早く起きすぎたツナは、家にいても落ち着かず、雲雀との待ち合わせ時間のかなり前に待ち合わせ場所に赴いた。雲雀はまだ来ていない。今日一日どうしようかな、などと考えているうちに時間はとくとくと過ぎ、ツナの心搏数は徐々に徐々に上がっていった。
そわそわとしてくる。雲雀に会う前に心臓が破裂しそうだ。そうツナが考えていたとき、約束の時間きっかり10分前に、雲雀が姿を現した。
学校外、というものは不思議なものである。普段どれだけ身近にいても、学校の外で会うと、制服を脱いだ私服姿を見ると、別人に思えてくる。
ツナは、優雅に、そしてツナを見つけて心持ち嬉しそうにこちらに向かってくる雲雀に思わず見とれてしまった。
黒のジャケットに同じく黒のパンツ。一見普段の制服と変わらないように見えるが、しかし薄青色のインナーがそうではないと語っていた。
ツナは雲雀の私服姿を一度も見たことがなかった。なので、彼の姿を見た瞬間、妙なドキドキ感と本当にこれからデートするんだという実感に顔が赤くなりそうになった。
自分の方へとやってくる雲雀を見つめて、だがツナは彼のある一点を目にとめてピシリと固まった。
「あ、の…その……ヒバリ、さん…」
目の前に立った雲雀に怖ず怖ずと思わず聞いてしまう。
「あの、今日なにか学校に用事があったんです、か…?」
言いながら、ツナの目線は再び彼の腕へ。そこには彼女がすでに見慣れてしまったものがあった。
10センチメートルほどの幅の布に、でかでかと文字が書かれたもの。並盛中学風紀委員会の腕章がその腕に巻かれていた。
「用事なんてあるわけないじゃない」
「そ、そうですよね!今日日曜ですし。は、ははっ、オレなに言ってるんでしょうね」
不思議そうにしている雲雀に、ツナは慌てて笑みを作って誤魔化した。だが視線は彼の腕から離せない。
雲雀が腕章をしていることに違和感はないが、制服ではなくこの服装でのそれは、かなりの不可思議さがある。
本日の服装については自分が何か言えた義理ではない、とツナは思っている。昨日の夜、頭が痛くなるほど散々今日着ていく服を悩んだのだが、結局わけがわからなくなって普段通りの格好で家を出てきてしまった。だから彼の格好について何も言えない。というより自分とは違って、雲雀はシンプルだが見とれるほどよく似合う出で立ちをしていた。むしろなんでオレこんな服着て来ちゃったんだろうな、という後悔が生まれていた。
だが、だがしかし。いくらなんでも私服にその腕章はないんじゃあないかっ!?とツナは思ってしまった。じぃっとツナは腕章を見つめる。赤と黄色を基調としたそれは黒のジャケットによく映え、かなり目立っていた。
「何?」
あまりに腕を見つめすぎていたのだろう。不信に思った雲雀に声をかけられた。ツナは腕章からぱっと目線を外して、慌てて両の手を振って何でもないことを示した。その服装にその腕章はないんじゃないんですか、などとは決して言えない。
「え、いえ、何でもないですっ」
ふるふると頭を振る。その顔はわずかに赤らんでいるようだった。雲雀はそんな彼女の様子を見とめて、
「………手でもつなぎたかったの?」
「へ…っ?え……わっ」
問われるはいなや急に手のひらを引かれて、ツナは驚きの声を上げた。
「ひ、ヒバリさんっ…!?」
見上げると、進行方向に目を向けていた雲雀がこちらを向いたため目があった。常に不機嫌そうな彼だが、しかし今は穏やかな瞳とかち合った。
「そろそろ行こうか。行き先は僕が決めちゃうけど、いいでしょ?」
ツナが肯定も否定もしないうちに、雲雀は歩き始めた。手を繋いでいるツナも必然的に足を進めることになる。手のひらのぬくもり。それはかなりツナの意図とは違うところで成立した。
ツナは彼の腕の腕章を見ていただけで、手を繋ぎたいなどとは毛頭考えていなかった。だが彼女はその手を振り払おうとは思わない。思いもしない。繋がれたままの手のひらに視線をやって、そしてその腕に付けられた腕章に目に留めた。
歩くたびにふわふわと揺れ動くそれには、大々的に風紀委員会と記されている。
このようなものを休日でも付けているということは、薄々気付いてはいたが相当に仕事に対するプライド意識が高いのか、それとも学校を愛しちゃっているのかのどちらかだろう。おそらく、雲雀はその両方当てはまるに違いない。いつだったか、「僕の学校」と学校に所有名詞を付けた彼の発言をツナは聞いたことがあった。
(ライバルは学校、なあんちゃって………)
そう考えて、存外それが笑えない事実ということにツナは気が付いた。鮮やかな腕章は自己主張激しく雲雀の腕で揺れている。それを眉根を寄せてまじまじと見つめて、はっとツナは正気に戻る。
も、もしかして、オレ腕章なんかに嫉妬してんの?うわっ、バカじゃないの!?ツナは腕章から視線を外して、はぁと一つ息を吐いた。そして先程の雲雀の問い掛けに応えるように、きゅっと繋がれた手のひらに力を込めた。
(何だかお題/squeezed orange)
|