「ねぇ、最近太った?」
 いちゃこらしてる途中。ドドンと言われた雲雀の言葉に、ツナはぴしりと固まった。
「ど、どーしてですか?」
「どうしても何も、最近肉付きがよくなったじゃない。ほら」
 言うのと同時の雲雀の行動にうぎゃ!とツナは声を上げた。びっくりしたのとくすぐったいせいで。目尻にはうっすらと涙が浮かんでる。
「ちょっ、どこ触ってんですか!」
「腰」
「そんなに淡々と言わないでください!」
 ふにっと服の上から腰をつまむ雲雀の手を振り払って、ふーっとツナは子猫が威嚇するように彼をにらみつけた。だが、雲雀にそんなこと効くはずもない。そもそも彼はツナの話を聞いているかどうかもわからなかった。振り払われた手のひらを見送ったあと、何故ツナが怒ってるのかわからないとでも言うように、ぱしぱしと瞳を瞬かせた。
「もう少し色気のある声出せないの?」
「何の話ですか」
「まあ、今は別にいいけど。夜になったらちゃんと鳴いてよね」
「ヒバリさん。人の話を聞いてください」
「聞いてるじゃない。で、何で太ったの?」
 だめだこりゃ、とツナは思った。ひたすらゴーイングでマイウェーな恋人様は人の話なんか聞いちゃくれない。いつものことだと思えど、ツナは何だか泣きたくなった。
 しかもだいたい質問のなんと失礼なことか。そんなの女の子に聞くことじゃない。
「ふ、普通女子にそんなこと聞きますか!?」
「でも事実でしょ?」
「うっ、そ、それは……そう……です、けど」
「だったら教えてくれてもいいじゃない」
「いやでも、それは…!」
「僕は君のすべてを知りたいんだ。どんな情報だって逃がしてあげないよ」
「んなっ!?」
 真顔で至って普通に言われた言葉に、ツナはボフンと赤くなった。何を言っちゃうんだこの人は、と頬が熱くなっていく。それでもツナは、太った理由は別にいいじゃないですか!と恥ずかしさで赤くなっていく顔とは裏腹に、内心で大いに突っ込みをいれることは忘れなかった。
「で、どうなの?」
 雲雀の視線は揺るがない。真っ黒い瞳はじいっとツナを見つめている。
 悪気があってきいているんじゃない、ってことはわかってる。時々意地の悪いことをしてくるが、基本的には自分の興味を持ったものにしか関心を向けない人だ。今回のこれも純粋な質問なんだろう。それはそれで泣きたくなってくるが、どうしようもない。
 向けられる漆黒の瞳に、ツナはとうとう観念した。
「た、たぶん」
「うん」
「もう季節も秋になって、お菓子の新商品も多くて」
「うん」
「それで、その………気になったお菓子を片っ端から買ってったら…その…あの……ふ、太ったの、かと……」
「ふーん」
 かなりの羞恥心に、ツナはだんだん俯いていった。ヒバリさん相手に何言ってんだろ、と本気で泣きたくなってくる。
 雲雀はふーんと言ったまま何も言ってこない。雲雀は何かを考えるように俯くツナの頭から足先まで眺め見た。
「何泣きそうになってるのさ」
「自分のあまりにも哀れな状況に悲しくなってるんです」
「可笑しな子だね。太ったことを否定されたわけでもないのに」
「そーゆー問題じゃありません。ってかむしろ否定されたら今頃大泣きですよ!」
「そう?じゃあその心配はないよ。僕は今のほうがいいと思うから」
 俯いたままのツナの腕をひっぱって雲雀は彼女を引き寄せた。ツナはうっかりバランスを崩してしまい、どさーっと雲雀の胸の中に倒れこんでしまった。
「だいたい君は痩せすぎなんだよ。このくらいがちょうどいい」
 近くで聞く声は、何度聞いても低く響いて心臓に悪い。恥ずかしくなって顔を隠そうと雲雀の服にしがみ付こうとした瞬間、ツナはぎゃーと叫び声を上げた。
「ちょっ、どこ触ってんですか!?」
「わき腹」
「だからっ、そんなこと淡々と言わないでください!」
 油断も隙もあったもんじゃない。雲雀の手を振り払って、ツナは再び彼をにらみつけた。だがやっぱり意味はない。
「ふにふにして気持ちいいのに」
 言われた言葉に、ツナはぴしりと固まった。
 ダイエットしよう。表情に出すことなく、草壁に新作のスナック菓子でも買ってこさせようと考えてる雲雀とは反対に、ツナは思いっきり渋い顔をしてそう強い意志を固めた。


砂糖は無しで



(とにかくお題/squeezed orange

百合っぽくなった。あれ…!?