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※時間軸的には黒曜編終了直後ですが、骸たちは復讐者に連れて行かれたので
はなく、いまだ何故か普通に黒曜中にいるという設定です。OKな方はスクロールプ
リーズ。
平和だなぁー。
HRが終わった後。椅子を机の上に乗せて机を下げながら、ツナはぼんやりと窓の外を眺めてそう思った。真っ青な空にはぷかぷかと気持ち良さそうに雲が浮かんでいて、何だか和やかになってくる。
あの対骸戦以来、ツナの身の回りはあの時とは正反対に穏やかなものになっていった。ポイズンクッキングの餌食になりそうになったり、リボーンが無理難題をふっかけたり、それまでたびたびあった多少のトラブルはあるものの、そんなことは骸との騒動後ツナにとっては、ホントはいやでいやで仕方ないけどまぁまだマシなものへと変わってしまった。悠々と流れる雲を見つめて。
平和だなぁー。
がたごとと後ろの人にぶつからないよう気を付けて机を運びながら、ツナは一人のほほんと、何も起こらないというささやかな幸せに浸っていた。知らず知らず立ち止まって空を見つめる。明日も晴れればいいなぁとのんびりと考えていると、隣の方から声をかけられた。
「ツナちゃん、帰ろ」
見れば、そこにはすでに帰る用意をすませた京子がいた。その後ろには同じく帰る用意をすませた黒川花。ツナを見て、相変わらずとろい奴と苦笑混じりに呆れていた。
「………へ?うわっ、ちょっと待ってて」
立ち止まっていたことに気付いたツナは、慌てて机を後ろまで下げ終わらせて、横に掛けてあった鞄を引っ掴む。そして一応、机の中に手を突っ込んでみる。忘れ物がないか確認した後、ごめんねと眉を八の字に下げて笑いながら京子達に合流した。
太平破壊者御断り 前編
「あ、そうだ。今日CD買いたいから、悪いけどちょっと付き合ってくれない?」
下駄箱で上靴から外靴に履き変えている最中。外靴を取出しながら肩を竦めて、特に悪怯れもせずに花がそうツナと京子に頼んだ。花の目的の場所はCDショップ。そこは駅前にあるため、学校からはいささか離れた場所にある。
それ故に多少歩かなければならないが、だがそんなに距離があるわけではない。普通の速さで歩いて15分程で着いてしまう。友達同士で話ながら歩けばあっという間に着ける距離であるし、何より学校帰りに友人と遊びにいくのは学校生活の楽しみの一つだ。
「あ、うん!」
「もちろん」
ツナも京子も楽しげに笑いながら返事を返す。京子はどうだかわからないが、ツナはここ最近CDショップに行っていない。そういえば全然CD買ってないなぁとぼんやりと思いながらツナはパタンと下駄箱を閉じた。
「ねぇ、黒川は何のCD買うつもりなの?」
「あーー、それが実はまだ迷っててさ。新譜のシングルで欲しい奴あるんだけど。でもアルバムでも買いたいのあるんだよなー」
「両方は買わないの?」
「そうだよ。欲しいなら両方買えばいいじゃん」
「無理無理、今金欠だもん。それにシングルのほう、もうすぐアルバム出しそうなんだ。だから今シングル買うのなんか癪だし」
外靴に履き変え、他愛もない話をしながら3人は正門に向かっていく。部活動や掃除当番等の関係で、HRが終わってすぐに帰る生徒は全生徒数から考えればほんの10数%にすぎない。しかし、数字の上ではそうであっても実際に帰宅する人数はそれよりも多いように思える。
正門と校舎の間のわりと短い距離には、朝ほどではないが、ツナ達のように何人かで集まって歩く生徒達でごった返していた。密集してるわけではなく適度に間隔が開かれているので、別のグループが何を話しているかなんてことはわからない。聞き耳を立てればいくらか聞き取れるかもしれないが、今この状況で楽しく繰り広げられている友人との会話を蹴ってまでそれを行なうというのは誰もがしないことである。ツナ達もその例に漏れず、からからと笑いあって他人の話等に興味をもたずに先程からの会話を続けていた。それが普通だ。
けれど、そんな会話を断ち切らせるほどに今日この場所は騒ついていた。
ざわざわと、特に女子特有の甲高い声が否応なくツナ達の耳にも届けられる。さすがに周囲がこのように騒めいていたら、大抵の者は何が起きているのか気になってくる。きゃらきゃらとした声に連れられるように、ツナは周囲を見渡した。
顔が赤くなってる少女、しきりに隣の友人と耳打ちしあっている少女、呆けている少年、不思議そうにしている少女、あらぬ憶測をしている少女。あまり一貫性はないが、けれど全員がある一点だけを見つめていた。いったい何なんだろ?周りの反応にクエッションマークを飛ばしながら、ツナは生徒達が見つめている辺り、つまり正門に目を向けた。
「…………………へ?」
正門の前には、十数人の女子と。その中心にぽつり。物腰の穏やかそうな少年が一人、少し正門に寄り掛かりながら立っていた。
「…………………えっ?え、えッ?」
少年の着ているものはカーキ色を基調とした制服であり、それは彼の周りを取り囲んでいる女子生徒のものとはもちろんのこと、その様子を遠目でちらりと見ていく男子生徒のものともまた異なった制服だった。違う学校の生徒だということは、一目瞭然。正門で立ち止まればただでさえ人の目を引くというのに、制服が違ってしまえば目立ってしまうのは当たり前だ。
しかし、この少年が注目の的になっている理由はそれだけではない。
周りを取り囲む少女達の質問に和やかに答えているその少年の顔は、稀に見る美形であった。そしてその美貌に合った優雅な物腰。まるでお伽話の世界からそのまま抜け出てきたかのようなその少年に、ほとんどの女子生徒が見とれていた。彼は何者なのか、彼は誰を待っているのかと、頬をうっすらと染め上げた少女達の疑問が行き交う中で、ツナは正門を見たまま瞳をぱちくりと瞬いていた。
どうにもあの少年に見覚えがあるような気がする。いや、見覚えがあるどころの話ではなく、どうにもこうにも知っている人物であったのだ。それも、かなり不本意ながら。
すらりと伸びた手足や少し青みがかったどういう構造かはわからない髪。しかし彼を最も特徴づけるのはその瞳だろう。赤と青のオッドアイを持つその顔を、ツナはつい数週間前にいやというほど見ていた。並盛中生徒連続暴行事件の首謀者であり、その実、脱獄してまでマフィアを恨みツナ達に戦いを挑んできた人物。
(ろ、ろ、ろ、六道骸―――――――――ッ!?)
頭をばっと押さえながら、ツナは声にならない叫びをあげた。声に出していたならおそらく周りの者の鼓膜に大ダメージを与えていただろう。口をあんぐりと開けながら、ツナは骸を見やりながら呆然とした。何であいつがここにいるんだろう?何で?何で?何でッ!?さまざまな憶測がツナの頭の中を駆け巡る。そんなツナの様子を気にすることもなく、花は額に手をあてて正門に目を向けた。
「おー、誰待ってんのかは知らないけど。やるねー、あいつ」
いたく感心したようにひゅーと口笛を鳴らす。その音に反応したわけではないだろうが、それまで和やかに受け答えをしていた女子から視線を外して、骸が不意に校舎の方に目線をやった。少し視線を彷徨わせてから、それはぴたりとある一点で止まる。ツナはびくりと肩を揺らした。み、見られてる?見られてるッ!?徐々にツナは顔色を悪くさせていく。まさに蛇に睨まれた蛙状態の彼女に、骸はにっこりと、それはそれは綺麗に微笑みかけた。
途端、周囲に騒めきが起きる。いったい誰が彼に笑いかけられたのか。彼の待ち人は誰なのか。好奇心と疑問に満ちあふれた周りの生徒達は、一斉に骸の視線の先を辿っていった。
「き、京子ちゃん!黒川!」
骸のあまりにもにこやかな視線に堪えかねたツナは、くるりと身体を反転させて京子と花に呼び掛けた。
「あっ、あのさ、今日裏門から帰んない?」
言葉こそ軽いものだが、真剣な態度で頼み込む。ツナのその行為に京子と花は目を丸くして、骸とツナを交互に見つめた。
「えっ、でもあの人」
「い、いいいいいからっ。行こ?ね?」
ツナちゃんを待ってたんじゃないの?と続くはずの京子の言葉を遮って、ツナは強引に京子と花を裏門の方に連れていこうとした。ぐいぐいと二人の背中を押す。
その行為は普段の彼女のおとなしい態度からは逸脱していたため花も何か言いたそうな視線を寄越していたが、そんなことツナはかまってられなかった。京子と花から骸を遠ざけたかったし、何より自分が骸から離れたかった。
骸に笑顔を向けられるとか、何考えてるのかわからないぶん怖くてしかたがない。急いでツナは裏門に向かおうとした。だが他でもない、ツナが裏門に行こうとした原因である骸が、それを許さなかった。
「ボンゴレ」
急にぐるんと身体を反転してこの場から去ろうとしているツナを骸が呼び止めた。びくんと肩を揺らすが、しかしツナは立ち止まらなかった。
骸が今呼んだ名は「ボンゴレ」であって「沢田綱吉」ではない。ならば誰も彼が自分が呼んでいるとはわからないはずだ。そう無理矢理決め込んで、京子と花の背中を押しつつずんずん進んでいく。
「ボンゴレ?」
呼び掛けても振り向きもしないツナを不信に思い、再度骸は彼女に声を掛ける。だがやはりツナは足を止めようとはしない。そんなツナの様子に、ふむ、と手を顎に当てて考え込むふりをしてから、骸は彼女のほうに足を向けた。
「ボンゴレ、ボンゴレ」
ゆったりと歩きながら、何度もツナを呼ぶ。当然彼女の歩みは止まらない。だが悲しいかな、足のコンパスの違いで2人の距離は段々と狭まっていった。後ろから骸が追いかけて来るという事実に、ツナの身体からはダラダラと冷や汗が流れる。
「沢田さん。沢田綱吉さん」
そしてもうすぐ骸がツナに追い付くというときに、ついに彼は彼女の名前を呼んだ。ツナはそれでも無視しようとしたが、もう遅い。すぐ後ろに骸がいるという直感と、一気に強くなった他の生徒達の視線に耐えかね、観念して立ち止まり、恐る恐る後ろを振り返った。
「ああ、やっと気付いてくれましたね」
「な、何か用です、か……?」
にっこりと笑いかけてくる骸にツナは戦々恐々して、思わず京子と花の後ろに隠れたくなる。だが、京子達を危険にさらすわけにはいかない。この人畜有害人物から京子ちゃんと黒川を守らなきゃ、と精一杯虚勢を張って、庇うように彼女達を背にしながら、ツナはきりりと骸を睨み付けた。
「何の用とは、そうですね…ってああ、そんな怖い顔をしないでください」
そんなツナをものともせず、骸はマイペースに話を進めていく。
「僕はもう貴女に危害を加えるようなまねはしませんよ」
おどけた調子で、両手をツナに見せながら肩を竦める。それはツナを安心させるような様子だが、けれどツナは信用できなかった。未だ疑うような視線を骸に向ける。それを最初からわかっていたようにため息を吐くふりをしてから、骸は再び彼女を見やった。
「本当ですって。信じてください」
「……信じられない、って言ったら。………どうするんですか?」
「ひどいですね。でも、僕は貴女に害を与える気はないので何もしませんよ」
眉を上げて未だ疑った様子で睨み付けてくるツナに、骸はくつりと笑ってから、淋しげな笑顔を送る。寂寞の表情。ツナは骸と数回しか会ったことがないのでわからないが、それは普段骸がする顔付きではないだろう。
その表情に一瞬気をとられてしまって、ツナは骸の次の行動に反応するのが遅れてしまった。
「ですから」
骸は呆けているツナの、鞄を持っていないほうの手を取る。白く暖かな、女の子特有の柔らかさを持つその手のひら。この手に自分が負けたと考えると、骸は笑いたいような頷きたいような、まったく妙な気分になった。
「ですから、そんなに怖い顔をしないでください。せっかくの可愛らしい顔が台無しですよ?」
例えば、騎士が王に忠誠を誓うように。例えば、王子が姫君に愛を請うように。彼女の手を自分の口元まで持ち上げて。ちゅっと音が聞こえてきそうな動作で、骸はツナの手の甲に唇を押しあてた。
そのままの姿勢を保ちながら、にこりとツナに笑いかける。
ツナは自分の手の行方を凝視しながら、完全に固まっていた。周りの声もおそらく聞こえていないだろう。
骸とツナの動向を見守っていた周囲の生徒達は一様に驚きの声を上げた。ツナの後ろにいた京子や花も目を見開いている。ざわざわと広がる声。周囲が騒がしくなっていく度にツナはぱちぱちと瞬きをして、骸を眺めていた。
「……………………んなっ!?」
正気に戻った瞬間。ツナは骸に掴まれていた手をばっと引き戻した。骸は勢い良く離された手のひらに、おや、と不満げな表情をしたが、特に何をすることもなく彼女の行動を見守った。引っ張り返した腕を背に隠しながら、ツナは今度こそ本気で骸を睨む。い、いいい今何したのこの人っ!?ありえないしありえないしえっ嘘なに今のッ!?
ときめきなどではまったくなく、むしろ羞恥心でバクバクする心臓をツナは何とか正常に戻そうとした。ぐるぐるとする頭の中を必死に押さえ付ける。深呼吸をして気分を落ち着かせようと息を吸い込んだときに、ようやく周囲の声がツナの耳に入ってきた。
その声に誘われるように周りを見てみれば、ほとんどの学生がこちらを見ながら何やらひそひそと話している。おそらく、確実に、ツナと骸のことを話しているのだろう。すぐ後ろからも何か言いたそうな視線を感じるが、京子と花の反応を見るのが怖くてツナは振り向けない。
かーっとツナの顔が赤く染まっていく。
そしてそれが耳まで達したときに、ツナは突如がしりと骸の手首を掴んだ。
このままここにいるのは恥ずかしいことこの上ない。自分一人でこの場から逃げてもいいが、それだとこの後の展開が、むしろ自分との関係を確実に問われるだろう骸が皆に何て吹聴するのか考えるのも恐ろしい。骸は自分に何か用があってこの並森中まで来たらしいが、それを聞くのは別にこの場でなくても構わないだろう。ならば一旦、骸を連れてここから遠ざかり、離れた場所で再度用件を聞いたほうがいいに違いない。
普段は使わない脳内をフル活動させて、ツナは0.5秒でそう結論づける。
「京子ちゃんっ黒川ッ!オレ、先帰るから!」
2人を振り返らずにそう告げる。ツナは骸の手首を掴んだまま、じっとまっすぐに正門を見据えた。そして正門だけを視野に入れて、ダッと一直線に猛ダッシュした。
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