乗せた体重のせいで骸のスーツがくしゃりと歪む。せっかく彼だけのためにしつらえられている上質のオートクチュールなのに、そんなにぞんざいに扱ってしまってはもったいないなとツナは思った。だが肝心の彼がそうさせているのでしかたがない。もともと、今ではスーツをよく着ている彼のことだ。1着くらい型崩れしてしまっても何とも思わないのかもしれない。
 骸の長い腕はツナを放すまいと腰にしっかり巻きついていて、膝の上に彼女を乗せて抱え込んでいた。ぶらんぶらんとツナの足が宙を揺れる。
 普段は触られることも嫌がるこの彼が、たびたびこのようにツナを捕獲するのはいつものことだ。いつものことだからツナは特に動揺することもなかったし、嫌がるそぶりも見せなかった。ただ骸あったかいなーとか、暇だなーとか、ぼんやりそんなことを考えていた。
 骸の突然の拘束は止む様子も見せない。ずっときつく抱きかかえられていて、最早ツナは正面に感じる体温にも慣れてしまった。
 何とも手持ち無沙汰な思いだ。抱き込まれたままではツナは何をすることも出来ない。ふと骸の1本に結ばれた髪が目に留まって、無意識に手を伸ばした。梳くと、絡まることもなくきれいに流れる。指に絡めると、絡めた途端次々と解けていった。さらさらと流れる髪が羨ましい。暇で暇でしようがないツナは何ともなしに彼の髪を弄り倒した。けれどそれが骸の琴線に触れたらしい。
「触らないでくれませんか」
 貴方なんかに触られたくもない。一息でそう言い切って、骸はますます腕の力を強めた。さらに強く抱きすくめられるともうツナは身動きがとれなくなる。吐き捨てるような語調も伴って、彼女は手を指を彼から離すしかなかった。
「骸」
 暇だ。暇だから名前を呼ぶ。返事はない。強い拘束はまだ解けない。彼の言動と行動が矛盾していると思わないわけがない。それでもツナは敢えて指摘しようとは思わなかった。
 震えている。誰が。彼が。しっかりと彼女を抱き留め骸は先程から微動だにしなていない。それでもツナは何故だろうか。そう思ってしまった。
「骸、むくろ」
 再び呼び掛ける。相変わらず返事はない。けれど呼ぶたびに彼の腕の力は弱まっていって、呼吸の容易さにほっとツナは息を吐いた。拘束が弛まったせいで、また簡単に彼の背中に腕が回せるようになった。
 手を伸ばす。手を伸ばして1度ツナはそれを彷徨わせる。骸は触れられることが嫌いで、ひどく厭う。きっとまた拒絶の言葉を吐かれてしまうに違いない。それでも彼女はそうしなくてはいけない気がした。そうすることが必然だと思って、ツナは躊躇うことなく骸の背に手を回した。
 とんとんと鼓動にあわせて背中をなぜる。すると相手が息を吐く感触を感じて、ツナは優しく骸を抱きしめた。


果てもなく求めてしまう甘さに



(何だかお題/squeezed orange

情緒不安定な骸とお母さんなツナ。