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03.
「あだっ!」
ガンっと良い音が辺りに響く。無論、少女が机に顔をぶつけた音だ。派手な音に比例して、打ちつけた場所が結構痛い。ずきずきと痛む顔面を手のひらで押さえながら、少女は思わずうーっと唸った。
少女が1人で暮らしているのは、1軒屋の工房である。少女以外、人っこ1人いないはずの1軒屋の工房。にも関わらず、不意に少女に向かって飛んできた声と衝撃は、誰にとっても恐怖以外の何物でもないだろう。特に、木立から飛び立つ鳥の羽音にも身を竦めてしまうほど臆病なこの少女なら、普通なら間違いなく叫び声を上げてしまっていたはずだ。
しかし、当の少女は今回の衝撃に怖がることも怯えることもなく、ただただ顔面の痛みに耐えていた。
ぶつけた場所がじんわりと熱を帯びて、ひりひりする。痛い、なんてものじゃない。不意の不意を突かれたため、何の用意も出来ずに攻撃を受けてしまった。もっとも、事前に衝撃を食らうことを知っていても大して痛みに変わりはなかっただろうが、しかしそこはやはり心の問題だ。不意打ちなんて、卑怯である。
まだひりひりとする顔をさすりつつ、ツナは椅子の上で少しよろけそうになった。そうしてよろけそうになりつつも、何とか踏みとどまる。ずきずきずきずき。痛いのは顔面なのか頭なのか、全くわからなくなってくる。だが襲いくる痛みを何とか受け流して、彼女は背中に降ってきた(というよりは落ちてきたと言ったほうが正しいかもしれない)衝撃の方向を、ぐるりと身体を反転させて、思いっきり睨み付けた。
「な、に、するんだよ、リボーンッ!」
声高に抗議の声を上げる。彼女が睨み付けた先には、小さな小さな赤ん坊がいた。
吸い込まれそうなくらい真っ黒い大きな瞳と、それと同じくらい真っ黒な髪。くりんとカールしたもみあげは、愛らしさと愛しさを誘っている。左右に白いぼんぼりが付いた黒い帽子を被り、そしてこれまただぼだぼとした黒い服を着ている。見た目は、少し珍妙な身なりをしているとはいえ、本当に小さな子供だろう。しかし彼は、そんじょそこらにいる普通の子供たちとは全くもって違っていた。
「おまえがくだらねーことでうだうだ言ってるから、喝を入れてやったんだろ」
リボーンと呼ばれた赤ん坊は、少女の怒鳴り声など気にも留めずに、淡々と言ってのけた。いつの間にやら部屋の真ん中に置いてあるテーブルの席に着き、優雅にコーヒーなんぞを呑んでいる。工房中に漂う、その香りの良いこと。当たり前だろう。豆から水からこだわれるものは全てこだわり、赤ん坊がその手で自らあらびいて煎れたものだ。独特の香ばしい香りが部屋中を充たす。だが、何食わぬ顔でコーヒーを口に含むリボーンのその態度が、ツナの怒りにより拍車を掛けた。
「く、くだらないことって……」
信じられない、とでもいうように、彼女が出した声色はか細かった。膝の上で握り締めた手のひらが、寒さのせいでもなくぷるぷる震えている。きっ、とツナはリボーンを睨み付ける。彼は全く素知らぬ顔だ。それがまたしても彼女の苛立ちを燃え上がらせた。ふるふると肩も震えてくる。勢い余って机に叩きつけた拳は、ダンッと思い切りよく鳴り響き、顔面をぶつけた時以上に痛そうな音を立てた。
「金欠の原因の大部分は、おまえだろ―――!?」
to be continued …
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