ぽっかぽっかとあったかい太陽の光が窓から差し込んできて、部屋中が心地よい気温になっている。こんな日は、何といっても絶好のお昼寝日和だろう。執務室の来客用のソファーも陽光をいっぱいに浴びていて、ふっかふかに煌めいている。この誘惑に誰が勝てるっていうんだろうか。いや、絶対誰も勝てないに違いない。現にオレだってそうだ。ちょっとだけって頭ん中で言い訳して、ごろんとソファーに寝そべった。処理しなきゃいけない書類がまだまだあるのにってわかってても、頭がぽーっとしてくる誘惑にはまったくもって勝てなかったんだ。
 皮張りのソファーは思った以上に、ってかいつも以上にふかふかしててすっげー気持ちいい。思わず頬擦りしたくなっちゃうくらいだ。熱くもなく冷たくもない丁度いい温度に、もふもふって顔をつけてあったかさを満喫する。
 普通なら女の人はこんなことソファーが汚れちゃうから出来ないってなるんだけど、でもオレは気にしない。だってオレは今、全然化粧なんてしてないんだ。
 そもそもオレは、化粧をすること自体が少ない。そりゃー他のファミリーとの会合とかパーティーに行くときとか。考えるだけで情けなくなってくるけど、ただでさえオレは童顔なんだ。重要な場面では、舐められないためにもメイクは完璧にする。だけどそれ以外では、化粧のけの字も浮かび上がらないんだ。執務室にこもって仕事をする時も、プライベートで外に行く時も、オレは所謂全くのすっぴん状態だ。
 化粧が嫌いってのも、メイクをしない理由の1つでもある。ベトベトするのが気持ち悪かったり、何だか妙に息苦しく思ったり。今でもまだ、いまいち化粧に慣れてないってのが悲しきかな紛れもない事実だ。京子ちゃんとかハルとか、屋敷内でもいっつもきっちりしてるのを見ると、すごいなーってつくづく思う。まぁ、すごいなーって思うぐらいならオレもしっかりやればいいんだけど。でも、それとこれとは話が違ってくる。ってゆーか、オレが化粧をしない理由の大部分は、化粧が嫌いってわけじゃないんだ。
 化粧が嫌いってだけなら、わざわざすっぴんでも大丈夫なように化粧水や美容液に気を遣ったりしない。洗顔方法にも注意したり、そんな面倒なことやってられない。
 メイクをしたくない理由は、もっと別の。もっと大切で大事で思いっきり馬鹿馬鹿しくて阿呆くさい、そんな理由なんだ。

「こんな時間に居眠りなんて。いいご身分だな、ボンゴレボス」
 突然上から降ってきた言葉にオレは驚いて、慌てて気持ち良く瞑っていた目を開いて声が聞えた方を仰ぎ見た。真っ黒い帽子に真っ黒いスーツ。肩に乗ってる何者かの目ん玉がキョロキョロ動いて、ギョロリと金色の目を向けてきた。逆光に立っていても、そのシルエットだけで誰だかわかってしまう。でも、わかったからって驚かないわけじゃない。むしろわかったからこそオレはますます驚いて、がばっとソファーから飛び起きた。
「り、リボーン!?なっ、何でこんなとこにいんだよ?」
「何でって、仕事が終わったからに決まってんだろ。お前が依頼した仕事じゃねーか。そろそろぼけたか?」
「んなっ。そんな哀れんだ目で見んなよ。覚えてるよ、ぼけてないよっ。だけどあれは明後日までかかるはずだろ?」
「俺を誰だと思っていやがる。あんなもん片付けるのに1週間もいらねーぞ」
「へ?」
「さっさと終わったからな。いつまでも辛気臭せーとこにいたくもねーし、とっとと帰ってきた」
 呆れた口調で語るリボーンは、アホ面すんなとオレの額にデコピンをかました。それが結構ジンジン痛い。あだっ、とうずくまって痛がってる様子のオレを見ながらリボーンはにやりと笑っていた。ほんと、性格が悪いってーか根性がひん曲がってるってーか。んなこと思ってるだけでも蹴られそうだけど、口に出してないだけまだマシと思ってほしい。
「だったらだったで、そう連絡くらいしろよな」
「めんどくさかったからな」
「おまえなぁ…」
「それにサプライズの方が喜びも一塩だろ?」
 そう言って、リボーンはにって嫌味ったらしい笑顔を浮かべた。最高に厭ぁな感じで、ものすごーくいい笑顔だ。まさしく自信満々。オレが喜ばないとは欠片も思ってないみたいな表情だ。
 確かに、喜ばないわけがない。怪我も負わず無事に、それもさっさとオレのもとに帰ってきてくれたんだ。喜ばないわけがない。もちろん喜ばないわけがないんだけど、でもオレははぁっと思いっきりため息を吐いた。
「自意識かじょー」
「誰が?」
「おまえが」
「違うのか?」
「違わないけどさ」
 至近距離で見たリボーンはやっぱり自信たっぷりに笑っていた。その笑顔が何だかムカついてくる。
 人が否定できないからって頭に乗りやがって、とか。文句は数えきれないほど出てくる。だけど、口には出さない。口には出せない。惚れた弱みとはちょっと違う。絶対違う。それでも帰ってきてくれて嬉しいのは確かだから、オレは黙るしかないんだ。
「おかえり、リボーン」
 オレはリボーンの肩に手をかけて引き寄せて、右頬に軽く唇を寄せた。ちゅっと音を立てたあとには、何も残らない。口紅なんかひいてないんだ。いくらだってキスできちゃう。
「ただいまだぞ」
 リボーンはオレの額だとか目蓋だとか頬だとかにキスを落としていく。その感触がくすぐったい。思わず身を捩れば、しっかりと身体を押さえられた。ファンデーションが付かないかなと気にする必要もない。口紅を残す心配もない。どんな時だって相手に触れれるんだ。化粧をするなんて勿体ない。
 ちゅっとくすぐったいキスが終われば、自然とリボーンと目が合った。すっごい近くで見る真っ黒い瞳は相変わらず笑みを讃えていて、オレも負けじと笑ってみせた。


戯れ歌



(とにかくお題/squeezed orange


常時らぶらぶってればいいです。