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そりゃあ一応オレにだって夢見てたことがあったんだよ?昔母さんが読んでくれた絵本のお姫様みたいに、いつかは白馬に乗った王子様がオレを迎えに来てくれないかなーって。なっ、ちょっ、鼻で笑うなよ!失礼だなっ。だって憧れだったんだよ。シンデレラも白雪姫も。物語に出てくるどのお姫様も。色ーんなことがあって、けど最後はかならず、王子様と結婚して幸せになりましたとさ。めでたしめでたし。そんなハッピーエンド。まあオレの場合はお姫様なんかじゃないし、昔は今以上に何のとりえもない努力もしないダメダメ人間だったわけだから当然王子様なんて現れるはずも無いんだけど。それでも、それだからこそかな?やっぱり絵本のお姫様のような人生に憧れてたわけだよ。
ページの果てに
ことり、ツナはグラスをテーブルに預ける。揺れる赤い液体。何処か遠い目をしながらツナはグラスの口をつけて濡れた部分を指で拭った。
「今日はいやに饒舌だな」
「えっ、そう?じゃあリボーンも饒舌になれよ」
はいっ、とツナは空になっているリボーンのグラスにワインを注ぐ。本来ならリボーンはワインでも何でも酒は飲んではいけない年令なのだが、彼は赤ん坊の頃から風呂上がりにビールを嗜んでいた。ワインを勧めるなんて今更だ。
にこにことしているツナにリボーンは思いっきりいやな顔をする。そして注がれたグラスを睨み付けて、ワインを一気に呑み干した。
「おお、いい呑みっぷり」
からからと笑いながら、ツナもまた自分のグラスに口をつける。ツナは酒に弱いわけではないが、強いわけでもない。故に人並みに酔うし、顔も赤くなる。今もツナの顔には、ほんのりと朱がさしていた。リボーンの顔色は変わらない。いつもと変わらぬ無表情で、すでに酔いが回り始めたツナを見つめていた。
「なあ」
「ん?」
つまみのチーズを食べながらツナはリボーンの方を向く。もごもごと口を動かしながら、なーに?と無邪気に笑う。
リボーンはワインを煽りながら、いやーな笑顔を見せた。
「……おまえは、物語みたいなハッピーエンドを望んでたんだろ?なんなら」
ぐいっと身を乗り出して、ツナに顔を近付ける。そして、
「俺が、オウジサマとやらにでもなってやろーか?」
にたりと口の端を更につり上げた。ツナはきょとんと目を丸くして、しばらく間近にある端正な顔を見つめる。ぱちぱちと瞬かれる大きな瞳。しかし数秒経ったあと。ぶはぁっと盛大に噴き出して、ツナは背中を丸めて笑いだした。
「…………………おい」
「や!ごめっ…!お、おおお王子様とか言うからついおまえのカボチャパンツ姿想像しちゃって……ッ!……………に、似合わなっ」
腹を抱えながら、リボーンから顔を背けてツナは肩を揺らす。
ごごごごっめっ、ぉお腹痛ッ!と笑い続けるツナのその耳に、ブチッと何かが切れる音が届いてきた。
「覚悟は、出来てんだろーな?」
「…………へ?え、や、ちょっ、え、リボーンさん?銃下ろそうよええっ撃つなよ撃つなよお願いだから撃たないでよつーか大体おまえが変なこと言うから悪すいませんオレが悪かったですごめんなさい」
強く後頭部に銃口を突き付けられて、ツナは両手を上げて早口でまくしたてる。リボーンはその様子にフンと鼻をならして、銃を懐に収めた。
「わかりゃーいい」
「へーい……」
顔はまだ赤いままうっすらと冷や汗をたらしたツナは、両手を上げた状態まま生返事を返した。
それに取り立て何の反応もする事無く、リボーンはチーズを口に入れる。その行動にツナはふぅと一息ついて、グラスに再び口を付けた。
銃口を突きつけられて脅迫される等リボーンの暴力的行動に慣れてしまってはいるが、それでもやはり怖いし心的疲労は溜まる。別にお酒で癒されるつもりはさらさらないのだが、こうして今酒を求めるのはある種の現実逃避願望を示しているのかもしれない。
くいっとツナはワインを飲み込む。
口の中に広がるのは、コルク独特の匂いとさらりと溶ける幾らかの渋みをもった葡萄の味。
そういえば、今はこうしてがばがば飲んでいるわけだが、お姫様に憧れていた昔は父親の所為か絶対にお酒だけは飲まないと誓っていたなーとツナはふと思い出した。
そうしてしばらく思考したあと、ツナの顔にふっと笑みが零れ落ちた。昔と変わったのは、それだけではない。
「ねえリボーン。」
にこりと。
「でもさ。オレは昔みたいに、お姫様は王子様と幸せに暮らしましたとさめでたしめでたしーなんてハッピーエンドに、憧れちゃいないんだ」
中身の入ったワイングラスを回しながら、リボーンを見て笑いかける。リボーンはさして興味がなさそうな反応を示すが、ツナは気にせず話を続けた。
「確かにあの当時はそう夢見てたけどさ。でももう10年たったんだ。オレは、普通オレぐらいの歳の奴が知ってるはずもないことを色々知っちゃったし、もうそんなこと夢見る歳でもないし、まぁこれでまだオージサマに憧れてるほうがすごいんだろうけど」
言って、おどけたようにツナは大げさに肩を竦める。
「おまえに会って、みんなに会って。今ここにおまえがいて、みんながいて、それで、オレが、いて。他の人のとは違うかもしれないけど、でもオレは今すっげー幸せなんだ。そりゃあ確かに最初はおまえに脅されて無理やり今の位置につかされようとしてたわけだから多少は抵抗したけど。でも最終的には自分自身で決めて、それで幸せなんだから。哀れオレの王子様とのハッピーエンドに憧れる気持ちは、どっかにすっ飛んで行っちゃったわけよ」
手持ち無沙汰な様子でグラスを弄びながら、くすりと笑みを浮かべる。リボーンは呆れたようにツナを見ながら足を組んで、その上に肘を乗せて手で顔を支えた。
「やっぱりおまえ今日は饒舌だな」
「そうかもね」
にししと、およそ歳相応の態度とは思えないほど悪戯気に笑って、ツナはグラスをテーブルの上に置く。
今までくるくると回していた所為で、グラスの中が渦を巻いていた。
赤い液体が回る様子を、ツナはじっと見つめる。リボーンはそんなツナの顔を観察していた。
「でも」
ぽつり。呟かれた言葉にリボーンはぴくりと眉を動かす。
「お姫様の物語が王子様とのハッピーエンドなら、オレの物語はどんな結末なんだろうねぇ」
未だ渦が起きているグラスを見たまま、ツナは苦笑する。リボーンはツナの顔から視線を逸らして、ゆっくりと下を向いた。
目を、閉じる。
「それも、おまえ自身が決めるんだろ?」
紡がれた言葉に驚いたように、はっとツナがリボーンのほうを振り返る。すると彼は、既にツナのほうを向いていて、ふてぶてしく笑っていた。何回かぱちくりと瞳を瞬かせる。そのあとにツナは、まいった、と笑った。
(何だかお題/squeezed orange)
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