木目調のテーブルは何とも素朴で温かみを感じさせてくれる。余計な飾り気がなく所々に置かれる観葉植物だけで彩られた店内は、窓から覗く太陽にも照らされて明るい雰囲気に包まれていた。テーブルの上ではあらかじめ用意されていた真っ白い紙ナプキンとナイフやフォークの一式が、ちょこんと端に鎮座している。綺麗に畳まれたナプキンを膝に乗せれば準備はオッケーだ。
 清楚なデザインの制服を着たお姉さんによって運ばれてきたものを見て、ハルはわぁっと歓声をあげた。
「んー、おいしそうです!」
 胸の前で手を合わせて素直な感想を述べる。目の前にはオレンジと茶色が広がっていた。
 きつね色のタルト生地の上には濃度の違うチョコレートクリームが何層にも分かれて重なっており、一番上にはたっぷりとオレンジが乗せられている。光に反射してきらきら光るそれはとてもみずみずしく、実に食欲をそそるものだ。
「ハルってほんとケーキ好きだよねー」
「はひっ、何言ってるんですかツナさん!ケーキが嫌いな女の子なんていませんよ」
「ふふっ、確かに。ほんと毎日食べても平気なくらいだよね」
「そうそう、京子ちゃんの言う通りです」
「うーん。まぁ、そりゃそーなよーな気もするけど。そんなもんかな?」
 しみじみと呟かれた言葉にハルはそーですよ!と力強く答えた。ツナさんだってそうでしょう?ハルの問い掛けにツナはうっ、と言葉を詰まらせた。強く反論することがさっぱりできない。何せかくいうツナの目の前にも、ハルとはまた違ったものが置かれていたのだ。
 クリームチーズがふんだんに使われたソースには、ココアパウダーが一面にかけられてタルト生地いっぱいに広がっている。その上にはよく熟したイチゴが乗せられていて、茶と白のコントラストに一気に鮮やかさを添えていた。お店のメニューを見て迷っていたツナに、ハルがオススメしたものだ。前に来た時に食べてみて、とてもおいしかったのを覚えている。
「本当にここのケーキは全部絶品なんですよ。この間学校の友達と来た時にもう絶対ツナさんと京子ちゃんを連れてきたいと思いまして!」
「そんなにおいしいんだ」
「はい!あ、でもやっぱりナミモリーヌのミルフィーユとは甲乙つけがたいんですが、でもこれはこれですっごくおいしいんです」
 すん、と鼻をくすぐる甘い香りだけでさえ十分に幸せを感じるくらいだ。ハルがこの店を見つけた時の感動はひとしおだった。店を出たあとに、ぼんやりとツナと京子に教えたいと思ってしまうぐらいだ。
「ハルちゃんがそんなに言うなんて。とっても期待しちゃうね」
「そーだぞ、ハル。自分でハードル高くしちゃってどーすんだよ」
「大丈夫です、まかせてください!味はこのハルが保障しますっ」
 にこにこと笑みを絶やさない京子と眉をひそめるツナに、ハルは胸をどんと大仰に叩いてみせた。こうなってしまったハルは、誰にも、もちろんツナにだって止められない。自信満々に高々と胸を張っている。そのハルの姿と少し苦笑気味のツナの表情を見交わして、京子は思わずくすくすと笑ってしまった。
「………あ、私のも来たみたい」
 ふと、向こう側から近づいてくるウェイトレスの姿を瞳の端でとらえる。ひそひそと京子の口からそれが伝えられて、3人とも一斉に居ずまいを正した。
 お待たせしました、と常套句が告げられた後、ウェイトレスのきれいな指先がトレンチの上のお皿を京子の前へと滑らせる。
 京子の目の前に置かれたそれは、先に来ていた2人のものとは少し違っていた。タルトやスポンジ生地に収められているのではなく、クリームチーズに絡められた林檎やブドウ、グレープフルーツに洋梨にバナナなど何種類ものフルーツが直接皿に乗せられていた。持ち帰りが出来ない、店内限定のスイーツだ。絡められているクリームチーズもただのチーズではない。レモン汁や蜂蜜などが加えられ、それによって為されるなめらかな見た目は、人に優美な印象を与えていた。
「はひっ。京子ちゃんのもおいしそうです」
 思わずハルは感嘆の声をもらしてしまう。
 あんまガン見すんなって、とツナにたしなめられたが、それでもまじまじとそれぞれのケーキを見つめてしまった。
「2人のもすっごくおいしそうだよ」
 そこまで言って、京子は少しだけ肩を竦ませた。そしてはにかんだ笑みを浮かべてみせた。
「あのね、私のも食べていいから、あとで2人のも少し食べさせてね」
 にこりと笑った様子は、僅かばかり恥ずかしそうだ。けれど羞恥を吹き飛ばすぐらい大きく、すぐにハルがこくこく頷いた。
「お、オレも!オレのも食べていーからさ。あとで、その……2人のもらっていい?」
「もちろんです!ハルも皆さんのケーキ食べてみたいです」
「じゃあ、あとでみんなで食べあいっこしようね」
 3人で顔を見交わして約束する。1人だけで食べる時とは違う。少しずつとはいえ何かしら変わっていく。それが重なって楽しみが何倍にも膨らんでいくのは確かな事実だ。誰からともなく笑みがこぼれていく。
「それじゃあいただきましょう!」
 カゴの中からフォークを取り出す。いただきます、と揃って唱えた後に、3人は目の前のケーキに取り掛かった。
「んー!」
「おっ」
「わぁ」
 1口目を放り込む。途端広がる幸せな味に、ハルもツナも京子も、じたばたと手足を振るいだした。おいしい!
 素直な感想は興奮を伴って、同じ時に伝えられた。
 暖かい店内は太陽の光でますますポカポカと心地よくなっている。けれどそこには、何よりも陽光にも負けない少女たちの笑顔が咲き誇っていた。



花と団子