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夕方のスーパーは、夕飯のために食材やお惣菜を買う主婦で少し混雑している。
そんな中。
バレンタイン行進曲 2
「えっと、チョコに生クリームにココア、か」
コートのポケットから紙切れを取り出して、京子はトリュフの材料を読み上げる。
「それじゃ生クリームから買いましょうか」
「そうだね。乳製品コーナーは………あっ、こっちか」
「へぇ、生クリームって乳製品のとこに売ってるんだ」
スタスタと軽快に店内を歩いていく京子とハルの後ろを、ツナは二人に感心しながらついていく。誇張ではなく、ツナはこれまで自分でお菓子を作ったことがまったくなかった。だから、ココアならともかく、生クリームのようにお菓子作り以外にはあまり使うことの無いものの売場を、知る由もない。あぁ確かにバターとか買った時に生クリームらしいものを見たような気がするなー、と過去に思いを馳せる。
店の入り口からさほど離れていない、野菜売り場を過ぎた辺り。そこに乳製品が置いてあるのを見とめて、ツナは駆け寄った。
「あ、あったあった。…………………純植物性脂肪と純乳脂肪?」
プロセスチーズが置いてあるところの上段に生クリームが陳列されているのを見つけて、ツナは生クリームを取ろうとする。しかし手を伸ばして、そしてそのまま固まった。目当ての生クリームに、2つの種類があったからである。メーカーの違いもあったが、だがしかしそのメーカーそれぞれでもまた、原材料の違いで生クリームを2種類に分けていた。
ツナにはどちらを選べばいいのかがわからなかった。
「これって、どう違うの?」
思わず京子とハルに尋ねる。
「難しい問題ですね」
「バターとマーガリンの違いと同じかな?」
「あ、そうですそうです」
「へぇー」
ツナはもう一度生クリームのパッケージを見つめる。
バターとマーガリンの違いと言われて一応は納得したが、それでも実際はわかるようなわからないようなという微妙な心境だ。
「どっちがいいのかな?」
「うーん。植物性の方が安いけど…………」
「動物性の方が美味しいんですよねー」
腕を組みながら考える京子に、うんうんと頷いてハルが続く。
「100円ぐらい違うもんね」
「そうなんですよ!……………でも、せっかくみんなで集まって作るなら美味しいほうがいいですよね」
「それじゃ、ちょっと高いけど動物性にしよっか」
言って、京子は純乳脂肪と書かれた生クリームを手に取った。そして「次はチョコのとこ行こ」とツナとハルに声をかけた。
「うわっ、相変わらずすごい数……」
バレンタインの約1ヵ月前から当日にかけて、大方の店はバレンタインフェアと称して通常よりもより様々なチョコレート製品を売るようになる。
ツナ達が訪れた店も例外ではなく、店の一角にコーナーを作り、そこにバレンタイン関連の品を置いていた。製菓用チョコレートから有名シェフ監修のチョコなど多種多彩に揃えられている。
「はひー、一度でいいからここにあるチョコを一気に全部食べてみたいです」
「もうハルちゃんったらー」
「そんなに食べたら鼻血出るぞ?」
並べられているチョコレートを前にして感銘を受けているハルに適度なつっこみを入れつつ、ツナは製菓用チョコレートを手に取る。
板チョコのように薄く綺麗に形作られたものでなく、ごつごつといびつな形のまま袋詰めされているそれを見て、あぁほんとにトリュフ作るんだなぁ、と尚更実感した。
「これでいいんだよね?」
「うん、じゃああとはココアだね」
「ココアって、どの辺に売ってましたっけ?」
「たぶん、コーヒー売ってる所と同じ所にあると思うんだけど」
「まぁ、ぐるって見て回ろうよ」
ツナの言葉に、ハルと京子は頷いて、3人で取り留めもない話をしながらココアを探した。
「あっ!」
「何?ハル。ココアあったの?」
探している途中、何かを発見して声を上げたハルをツナは呼び止める。
「いえ、違うんですけど。あれ見てください!」
言いながらハルはびしりと指をさす。
さされた方角では、ポテトチップスの袋が山のように盛られていた。
「あ、またポテチの新作出たんだ」
「ほんとだね。でも私、前の味好きだったんだけどな。もう売らないのかな」
「んー。生き残ってくれればいいんですけどね。でも今度のも美味しそうですよ」
近くに寄って、袋を手に持ってみる。
中の菓子が揺れ動いて、がさりと音を立てた。
「お菓子コーナーもさ。昔と全然違うよね」
「そーそーっ。小学生の頃に食べてたお菓子とか、いつのまにか無くなってるよね」
「好きだったお菓子がなくなると切ないですよね」
「あ、わかるわかる」
「私もー」
菓子を前にしながら、3人の少女はやれこれが美味しそうだだのやれこれは苦手だだのと語り合う。
くるくると表情を変えながら話す少女達の様子は実に楽しげである。
流れる時間。
身振り手振りを加えながら、ある程度の菓子を語りつくすと、彼女達は、あっ、と当初の目的を思い出した。
「少し喋りすぎちゃったね」
肩を竦ませて、ぺろりと舌を出して京子は苦笑する。
「うん。でも、ちょっとスッキリしちゃった」
「ハルもです」
それに釣られたかのようにツナとハルもくすくすと笑いあう。
その笑みをたたえたまま、お菓子コーナーに別れを告げて、3人は再度店内を歩きだした。
「では、ココアを見つけて、材料買って、京子ちゃんちに戻るとしましょうか!」
一歩、前に大きく踏み出して、くるりとハルが振り返る。ツナはそんなハルの様子を危ないなー思いながらも、しょうがない奴と苦笑した。
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