ザンザスが目覚めて気付いたことは、記憶にないが自分がいつのまにかベッドに入っていたということと、やけに自分に冷たい視線を送っている奴がいる、というものだった。
 ベッドに横たわりながら目線だけで室内を探る。と、ベッドの近くに椅子を構え、その上にどっかりと座ってこちらを見つめているツナと目が合った。冷たい視線の正体は、確実に彼女からのものだろう。
「お」
「ばっかじゃないですか!?」
 声を掛けようとして、しかし先手を取られた。ザンザスは僅かに目を見開いたが、だがツナはそんなことは気にせず膝の上で拳を握ってきっと彼を睨み付けた。
「ばかじゃないですか!?そりゃあ昨日貴方たちがあのファミリーを潰してくれたおかげでうちとしては万々歳なわけですけど。でもっそんな怪我をしてまであそこを潰してくれなんてオレは頼んでないですっ」
 言って、ツナは睨み付けていた視線をザンザスの腹部に移した。ザンザスもつられて視線を移す。
 ぐるぐると包帯が巻かれた姿は随分と痛々しい。普段怪我とは無縁の男が床に伏せているのだから、彼女は余計そう感じるのだろう。
「大体、ろくに計画も立てないで潰しに行ったらしいじゃないですか!ルッスーリアさんから聞きましたよ!?なんっでそんなことするんですか!っていうかそれで怪我して帰ってきちゃあほんっと世話ぁないですよねっ」
 一気にまくしたてて酸素をだいぶ失ったツナはぜぇはぁと肩で息をする。ザンザスはツナの言葉をぼーっと聞いていたが、はぁとため息を吐いて、
「俺たちはいつも任務に計画なんか立ててねー」
「なっ、…………はぁ!?」
 妙な反論をされてしまってツナは思わず聞き返してしまった。それにザンザスは何も答えず、その代わり何かを思案したあと逆に尋ね返した。
「ところで、何で俺はこんなとこで寝てんだ?任務終了で屋敷に戻ってきたところまでは覚えてんだが」
「なっ、倒れたんですよ!屋敷に戻ってきてすぐに!オレの前で!バターンってッ!だいたい何で撃たれたのに平気で歩いて帰ってきてるんですかっ、そんなのぶっ倒れるに決まってるでしょう!?」
 まったく貴方は前にも、とツナはくどくどと勢いに乗って説教を始める。ザンザスはそれを右耳から左耳へと聞き流しながら、ツナの顔を見つめた。
 怒鳴っている所為でその頬は紅潮し、眉は思いっきりつりあがっている。瞳には怒気が含まれ、だがいつものそれとは何処か違って見えた。しいて云うならば、目が、赤い。
「おい」
「な、何ですかっ!?」
 急に呼び掛けられてツナはびくりと過剰に反応する。話を折られて不満気だが、むっとした表情になりながらも黙った。ザンザスはツナがそうやって話を聞こうとする姿勢を取るのを見とってから口を開いた。
「おまえ、ずっと寝ないでついててくれたのか?」
 そうして腕を持ち上げて、さらりとツナの目尻をこする。
「なっ、そ、そんなことあるわけないじゃないですか!貴方がぶっ倒れてからいったい何時間経ってると思ってるんですかっ。それに、それに。そんなに…オレ……暇、じゃ、ない、ですし……」
 言って、ツナはザンザスの手を払い除けてぷいっと顔を背けてしまった。彼女の頬は、先程とは違った意味で紅潮している。ザンザスは数秒目を瞬かせたあと、ふっと笑って手を引っ込めた。
 彼女が今言った言葉は虚偽か真実かはわからない。確かに人一人の看病にずっとついていられる程、彼女は暇ではない。だが、自分が目覚めたときに彼女が近くにいたということとそして彼女が寝ていないということは事実だろう。なによりそれは彼女の充血した目と目の下の隈が物語っていた。
 ふぅと息をついてから、ザンザスは上体だけを起き上がらせる。多少痛みが伴ったが、そんなことは気にも留めなかった。
「ちょっ、何してるんですかッ!絶対安静なんですからおとなしくしてて下さいって……うわっ!?」
 慌てて身を乗り出してくるツナの腕を捕まえて、そのまま引っ張ってベッドの上に乗り上げさせる。乗り切らなかった脚も片手で持ち上げて、どさりとベッドに落とした。
 そうして何が何だかわからない内にベッドに寝かせられたツナをザンザスは後ろから抱き込むように腕を回した。
 人の体温を感じて、ツナははっとなる。
「なっ、ちょっ、な、何するんですか!離してくださいッ」
「おい、暴れれば俺の傷口が開くぞ」
「うっ…!」
 ザンザスの言葉に、ツナは一瞬抵抗をやめた。その隙に、さらにザンザスは回していた腕に力を込めた。
「少し休め。俺ももう少し寝る」
 そう言って、ツナが暴れないようにしっかりと抱き留めて、目を閉じた。ツナは微弱な抵抗をしていたが、しかし次第にその力も弱まっていった。
 沈黙が、降りる。
「…………オレ、寝相悪いんですから。傷口蹴っ飛ばしても知りませんからね」
 ぼそりと呟かれた言葉に、目を閉じていたザンザスは軽く目蓋を上げて、そしてふっと笑みを浮かべた。
 さすがに今まで眠っていなかったためか、横になるという魔力にはあらがえなかったのだろう。ツナは何分も経たないうちにすーすーと寝息を立て始めてしまった。
 ぎゅうと彼女を抱き締める。そして彼女のふわふわとした髪の中にザンザスは満足気な表情を浮かべながらぽふりと顔を埋めた。



夜明けに僕の隣には





(何だかお題/squeezed orange