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デートに誘われてしまった。このオレが。山本に。
け、けど、それは全然不思議なことなんかじゃなくって。一応、オレと山本は、こ、こ、恋人同士、だからっ。だから、それはむしろ普通のことなんだ。ただ、ただし、ちょーっとばかし、オレがそーゆー、デ、デートとかに免疫がないだけで!
思えば、付き合うようになってから、山本と2人で遊ぶってゆーのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。学校では獄寺君と3人でいることが多いし、休みの日はほとんど野球部の練習が入っちゃってる。たまに練習のない日に山本がうちに来てくれたりするけど、でも、なんつーか、うちってこう、居候が多い家だから、2人っきりになれることは当然、無い。
だから、オレにとって山本と2人きりってゆーのは、付き合ってるのにそれってどーよって思うけど、結構珍しいことで。つまり何だかちょっぴり、緊張しちゃうもので。オレはこーして、デートを目前に控えて、かなりテンパっている。
「今度の日曜、遊びに行かねぇ?」と誘われたのは今週の火曜日。その日からオレはそわそわしっぱなしだ。ついでに今日は土曜日。明日は件の日曜日。その事実にオレの心臓はさっきから煩いくらいバクバクがなりたてている。
あー、もー、どうしようどうしようどうしよう。どうしようが何に対するものなのかもわかんないくらい、オレの頭は複雑怪奇に混乱してる。
どうしようどうしようどうしよう。………あ、そうだ。とりあえず、着ていく服はどうしよう!オレは慌ててクローゼットに手を伸ばす。
普段の服……はやっぱり止めたほうがいいんだろうか。だ、だってデートだし。うん。でも、だったら何を着ればいいんだろう。あー、今、物凄く誰かに相談したい。母さんは………恥ずかしいからヤだ。こーゆー時に頼りになるのはビアンキだけど。でも今日に限って、どっかに出かけちゃっている。
なんってタイミングが悪いんだオレ!思わず自分の不運を嘆いてしまう。でも嘆いたって問題はまったく解決しない。オレは迷いながらも、クローゼットの中身を引っ繰り返した。
………そういえば。山本は、何を着てくるんだろう。たぶん普段通りのカッコなんだろうなって思うけど。でも、山本はかっこいいしセンスもいいから、きっといつも通りかっこいいんだろう。
それに比べてオレは、センス無いし。顔だって平均的だし。スタイル、悪いし。それ以前に、何をやってもダメダメだし。果たしてこんなオレが、本当に山本の隣に立っていいんだろうか。
あぁ、だめだ。考えたら凹んできた。オレはクローゼットを漁る手を止めて、そのままベッドに倒れこむ。明日のデートのことでバクバクしてた心臓は、少しずつ、徐々に違う色合いに変わっていくようだった。
明日のデート、どうしよう。それでも、頭ん中を巡るのはそのことだった。
オレなんかが山本と釣り合うわけがないんだけど、そんなことは重々承知なんだけど。それでも、山本の恋人としてふさわしくありたいって思う。
付き合うってゆーのは結構難しい。友達同士の時じゃ全然考えなかったことも気にしてしまう。はーぁ、とオレはため息を吐く。それからごろんと寝返りを打った。
それに、オレはいつもいつも山本に何かしてもらうばかりだ。幸せをもらってばっかりだ。それは、いけないことだと思う。恋人同士だってゆーなら、オレだって幸せの気持ちをあげたい。山本に、何かをしてあげたい。
オレは考える。でも、何をすれば喜んでくれるのか、そんなことオレのこのポンコツの頭じゃまったく思いもつかない。我ながら嫌になってくる。それでも頭を捻って、考えて考えて。
「…………お弁当……」
やっと頭を過ったアイディアをぼそりと小声で呟いてみる。
よくテレビとかで、女の人が恋人のためにデートの時お弁当を作っているのを見かけることがある。その時男の人たちはみんなすっごい喜んでたような気がした。オレの料理の腕前じゃ山本に喜んでもらえるか微妙だけど。でも、今から母さんにちょっとコツさえ教えてもらえば何とかなるはずだ。た、たぶん。
そうと決めれば、オレはすぐさまベッドから飛び起きる。ごちゃごちゃに荒らされたクローゼットの中身をそのままに、1階まで下りていく。
「か、母さん。あのさー」
階段の上から母さんに一声。それからバタバタと台所の方へ。ぴかぴかに研かれた台所にちょっと緊張するけど。それでもオレはドキドキと高鳴る心臓の音を抑えながら、よっしと力一杯気合いを入れた。
前夜の話
(とにかくお題/squeezed orange)
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