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春遠からじ
早起きできた。お弁当も……み、見た目は悪いかもしれないけど、一応作れた。でも、うっかり弁当作りに真剣になっちゃって、出来たーって菜箸を置いた時には、時計の長針は家を出るはずだった文字盤の数字を4つも通り越した後。
そ、それはつまり、今が出かける予定時間の20分後ってことで………。
言い換えれば、約束した時間まであと10分しなかいってことで……………。
オレはざあっと青ざめる。そりゃあ走れば間に合わない距離じゃない……かもしれない。け、けど!オレの遅い足じゃ完全に。ち、ち、遅刻だっ!
全身全霊を込めて全力疾走。オレは駅前に向かって走る走る走る。家を出る直前に付けた腕時計は、約束した時間をとうに過ぎていた。あー、もー、何やってんだオレは!弁当作ってて遅刻だなんて、これじゃ本末転倒だ。
正直、泣きたくなってくる。
走ってるからか風がびゅんびゅんこっちに向かってきてて、顔にあたって少し痛い。当然目にも風が直撃して、ちょっとしみる。初デートに遅刻なんて、最悪の上に最低だ。数十分前の自分を心の底から恨めしく思ってしまう。つーか、恨む。
結局、あれこれ悩むはずだった今日の服装も「時間が無い」という理由の下、そりゃ悩むには悩んだけど適当に決めてしまった。普段のカッコと、同じような感じ。
京子ちゃんやハルだったら普段のカッコでも十分可愛いんだけど。そこは、所詮、オレだし。可愛さなんて、きっと皆無だ。せめて1つだけでも今日のカッコの長所をいうなら、それは動きやすいってことだけで。でもそれって、デートの服装としてはどーよ、って心底頭を捻りたくなる。
走って走って走って、ちょっと休んで、また走って。やっと見えてきた駅の前。そこにすぐ山本の姿を発見して、オレは尚更焦ってしまう。
「や、山本!」
慌てて呼び掛けて、走り寄る。足が痛い。息も苦しい。でも、それより何より罪悪感が込み上げてきて、オレの心臓は色んなもので何か爆発しそうだ。
「お、遅れて…ごめ……っ!寝坊した…わけじゃ、ない……ど、で、でも、ごめん。ほんっ…と、ごめん!」
走ってきたせいで、声が喉につっかかる。ぜーはーと肩を上下しながら呼吸してしまう。むせるように咳をしたら、ちょっと止まんなくなった。
あー、もー、恥ずかしさとか申し訳なさで顔を上げらんない。学校に遅刻する時とはわけが違う。罪悪感で胸がつぶされそうだ。
「ほんと、ごめっ」
「いーって、いーって。気にすんなって。それより、大丈夫か?」
山本はいつもみたいにやさしい事言ってくれて、むせてるオレの背中をぽんぽんって撫でてくれた。オレはタンマって感じで手を掲げて、懸命に息を整えようとする。
げほげほって咳して喉につっかえてた空気を抜いたら、比較的楽になった。そのまま深呼吸を数回。ラジオ体操みたいに大げさにやるわけじゃなく、そのままの姿勢で息を吸って吐いて。胸のバクバクはおさまんないけど、でも何とかさっきよりかは落ち着いてくる。それで。
「…………ごめん」
落ち着いてきて、口から出た言葉はやっぱこれだった。
ごめん、ほんと、色々。
落ち着いてきたってことは、少しは冷静になったってことだ。頭から血の気が引いていったオレは、とりあえず自分の行動に自己嫌悪。す、すっ、す、好きな、人の、前で、こんなゲホゲホむせ返るなんて、いったいなんて様だ。遅刻した上にここまでの醜態をさらすなんて、本当にありえなさすぎる。自分のありえなさ加減に凹んでくる。自分が山本だったら、絶対確実にドン引きだ。
思わずちらっと山本を見てしまう。そしたら、
「だいじょぶか?」
山本はドン引いたりしないで、心配そうにこっちを見てくれていた。それについ慌てて、びしっと姿勢を正してしまう。
「う、うん。だいじょぶ!もう大丈夫」
「そか」
ならよかったって山本は、にって笑顔を浮かべた。それを真っ向から直視しちゃって、オレは思わず俯いてしまった。罪悪感と、あとちょっと、それとは別種の何か。それは友達の時じゃ考えられなかった感情で。静かに、けど確実にオレの心搏数を上げていく。落ち着いたはずの心臓は、また何かバクバクいい始めてた。落ち着け、とか。単純すぎる!とか思うけど、赤くなりつつある顔色は止められなかった。
「んじゃ、ま、行こうぜ」
波打ってる心臓にかまけてて、一瞬反応が遅れてしまった。
「ツナ?」
その場で固まってるオレを不思議がって、山本がオレの名前を呼ぶ。はっとオレは我に返って、駅に向かってく山本を急いで追っ掛けた。
デ、デートはまだまだこれからだ。挽回の余地はまだ、た、たぶんきっとまだあるはず!
一応成功したような微妙のような、けど今はひたすら憎たらしい弁当が入ったカバンをぎゅっと握ぎりしめて、そう考えながらオレは山本の隣を歩いてった。
(とにかくお題/squeezed orange)
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